なぜSu-34は”話さない”のか──露パイロットが明かした秘匿無線の欠如とEMCONの世界

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目次

はじめに

最近、X(旧Twitter)上で、開戦初期からウクライナでの作戦に参加してきたとするロシア空軍Su-34パイロット(1,400回の戦闘出撃を主張)への3時間超のインタビュー内容が紹介され、注目を集めている。

その中で特に話題となっているのが、**「標準型のSu-34には秘匿(暗号化)無線通信が搭載されておらず、暗号化通信は近代化型のSu-34Mで初めて実現した」**という証言である。

暗号化されていない無線とは、例えるなら「誰でも聞ける状態で電話をかけている」ようなものだ。敵が周波数を合わせれば会話は筒抜けになる。そのため実戦では通信そのものを控えざるを得ない──この証言が、「Su-34パイロットは無線を使えない」という話題として拡散している。

当ラボとして最初に明確にしておきたいのは、これは単一のパイロット証言をX上の第三者が要約したものであり、公式発表や独立した検証によって裏付けられた情報ではないという点である。 真偽については、今後の情報を慎重に見極める必要がある。

しかし、仮に事実であったとしても、軍用機が「話さない」こと自体は決して珍しいものではない。むしろ現代の航空戦では、装備の制約であれ戦術的選択であれ、「電波を出さないこと」が航空機の生存性を高める重要な要素となっている。

本稿では、Su-34を切り口として、現代航空戦におけるEMCON(Emissions Control:電波放射管制)の重要性について考察する。


【事実】Su-34とはどのような機体か

Su-34は、ロシア航空宇宙軍が運用する長距離戦闘爆撃機である。「戦闘爆撃機」とは、戦闘機なみの飛行性能を持ちながら、主な任務は地上目標への爆撃という機種を指す。有名なSu-27戦闘機をベースに開発され、NATO(北大西洋条約機構)側が識別用に付けたコードネームは「フルバック(Fullback)」である。

開発は1980年代に始まり、1990年に原型機が初飛行した。ソ連崩壊にともなう開発遅延を経て2000年代に量産体制が整い、2014年に正式にロシア軍へ配備された。現在ではロシア航空宇宙軍の主力攻撃機として運用されている。

外見はSu-27系列に似ているが、機体は一回り大型化され、長距離飛行と対地攻撃能力を重視した設計となっている。

最大の特徴は、パイロット2名が横に並んで座る左右並列(サイド・バイ・サイド)の操縦席である。多くの戦闘機では2名乗りの場合も前後に座るが、Su-34は旅客機のコックピットのように隣り合う。乗員は機首下部のハッチから胴体内部へ入り、内蔵された梯子を使って操縦席へ向かう。さらに長距離任務を想定し、機内には簡易トイレや休憩スペースまで設けられており、一般的な戦闘機とは大きく異なる設計思想を持つ。

大型機でありながらSu-27譲りの優れた空力性能と高出力エンジンにより、高い機動性能を維持していることも特徴である。機首付け根には**カナード(前翼)**と呼ばれる小さな翼が付いており(Su-30SMやSu-33と同様の特徴)、大型化・重量化した機体の安定性と運動性を補っている。「大きい割によく動く」機体である理由の一つがこれである。

運用国は現在ロシア一国だが、2025年に流出したロシア国営軍需企業の内部文書や複数の報道によれば、アルジェリアが輸出型14機を発注したとされ、初の輸出先になるとみられている(ただし両国政府による公式確認はない)。

現在、Su-34はウクライナ戦争において、滑空爆弾(UMPK)を使ったスタンドオフ攻撃の主力機として中心的な役割を担っている。滑空爆弾とは、通常の爆弾に折りたたみ式の翼と誘導装置を後付けし、数十km先までグライダーのように滑空させて目標に当てる兵器である。「スタンドオフ攻撃」とは、敵の防空ミサイルの射程外(=安全圏)から攻撃する戦法を指す。つまりSu-34は、危険な空域に踏み込まずに爆撃できる手段を得たことになる。

Jakub Hałun, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons/【写真:ウクライナ空軍Su-27戦闘機】
Alex Beltyukov, CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2, via Wikimedia Commons/【写真:ロシア空軍Su-30SM戦闘機】
Oleg V. Belyakov – AirTeamImages, CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2, via Wikimedia Commons/【写真:ロシア空軍Su-34戦闘爆撃機】

【事実】EMCON(電波放射管制)とは何か

EMCON(Emissions Control)とは、「電波放射管制」を意味する軍事用語である。

簡単に言えば、敵に探知される可能性のある電波の発信を必要最小限に抑える運用である。

対象となるのは無線通信だけではない。

  • 無線通信:音声でのやり取り
  • レーダー:電波を発射し、その反射で敵を探す装置。ただし発射した電波は敵にも「こちらの存在」を教えてしまう
  • データリンク:僚機や地上部隊と目標情報などを自動でやり取りするデータ通信
  • IFF(敵味方識別装置):「自分は味方だ」と電波で応答する装置
  • 衛星通信:人工衛星を経由した長距離通信

など、電波を発するあらゆる電子機器が管制の対象となる。

なぜここまで徹底するのか。現代戦において、敵はレーダーだけで航空機を探しているわけではないからだ。**電子情報収集(SIGINT:シギント)**と呼ばれる、敵の発する電波を傍受・分析する活動や、**電波方向探知(DF)**という、電波の発信源の方角を割り出す技術によって、航空機が発するあらゆる電波から、飛行位置や侵入方向、部隊規模までも推定できてしまう。

身近な例で言えば、暗闇の中でスマートフォンの画面を点灯させれば自分の居場所が知られてしまうのと同じで、電波を発した瞬間、そこに「いる」ことが敵に伝わるのである。

実際、ウクライナ戦争ではこのリスクが現実のものとなっている。2022年5月にはウクライナ情報機関が、撃墜されたSu-34の乗員と管制側との交信を傍受・公開したと発表しており(内容の独立検証はされていない)、交信そのものが敵の情報収集の対象となっている実態がうかがえる。仮に「標準型Su-34には暗号化無線がない」という冒頭の証言が事実であれば、こうした平文(暗号化されていない状態)での交信が傍受された事例とは整合的である。

Alex Beltyukov, CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2, via Wikimedia Commons/【写真:空中給油を受けるSu-34】

【未検証情報】パイロット証言が語るその他の内容

本稿の起点となったインタビュー要約には、無線の件以外にも注目すべき証言が含まれている。いずれも単一の証言者によるもので独立した裏付けはないが、参考情報として整理しておく。

  • 標準型Su-34では主に無誘導爆弾(誘導装置を持たない、投下後は落下するだけの旧来型爆弾)による任務を実施し、秘匿通信を持つSu-34Mが**敵防空制圧(SEAD)**任務──敵の防空ミサイルやレーダーを先に叩く危険な任務──に充てられていた
  • 開戦初夜、明確な任務なしにキーウ上空6,000mを飛行させられ、帰投を命じられた。帰路にキーウへ向かうミサイルを目撃したことから、自機がウクライナ防空を反応させる**「囮(おとり)」として使われた**と証言。防空部隊はレーダーを作動させ、ミサイルを撃った瞬間に自らの位置を晒す。そこを後続のミサイルで叩く──囮とはそのための「撒き餌」である。旧型Su-34はこの用途に複数回使われたという
  • ウクライナ防空は非常によく組織され、分散化されていた(一箇所を潰されても全体が機能し続ける配置になっていた)と高く評価
  • 開戦初期に最も効果的だったのはBuk-M1(ブーク:ソ連時代に開発された自走式の中距離地対空ミサイル。ウクライナも同系統を運用)であり、実際のロシア空軍の損失はネット上で流布している数字よりはるかに多かったと示唆
  • ウクライナのBuk部隊は頻繁に陣地転換し、システムをセミトレーラーに搭載することで機動性を大幅に向上させた。「撃ったらすぐ移動する」ことで、ロシア側の反撃を受ける前に姿を消せるようになった
  • ウクライナ側は「全機撃墜」ではなく**「毎回数機ずつ確実に落とす」累積消耗戦術**を採用しており、証言者の所属部隊はキーウを巡る戦闘で保有機の半数を失ったという(部隊規模は不明)

これらの証言は、後述するOryxの集計方法(視覚的証拠に基づくため、実際の損失は集計より多い可能性がある)とも矛盾しない。ただし、証言者の経歴や出撃回数を含め、内容の検証は現時点では不可能である点を重ねて強調しておく。


【考察】なぜ軍用機は無線を使わないのか

誤解のないように述べておくと、軍用機は離陸から帰投まで完全に無線を封止しているわけではない。

出撃前には、

  • 攻撃目標
  • 飛行ルート
  • 攻撃時刻
  • 空中給油の計画
  • 緊急時の対応

などについて詳細なブリーフィング(事前打ち合わせ)が行われる。言い換えれば、**「飛んでから相談する」のではなく「飛ぶ前にすべて決めておく」**のである。離陸後も、味方基地やAWACS(エーワックス:早期警戒管制機。強力なレーダーを積み、上空から戦域全体を見渡して味方機を管制する”空飛ぶ司令塔”)、空中給油機との必要な通信は実施される。

しかし、敵防空圏──敵の地対空ミサイルやレーダーが待ち構える空域──へ接近すると状況は変わる。不要な通信は極力避け、必要な場合のみ短時間・暗号化された通信を行い、基本的には事前計画どおり静かに任務を遂行する。

これがEMCONの基本思想である。すなわち、**「話さない」のではなく、「必要な時だけ話す」**運用である。


【事実】米空軍も同じ運用を採用している

この考え方は、ロシア空軍だけの特殊なものではない。

1991年の湾岸戦争では、米軍はF-117ステルス攻撃機を投入し、イラクの防空網や指揮通信施設を奇襲攻撃した。「ステルス」とはレーダー電波を反射しにくい特殊な形状・素材により、レーダー画面にほとんど映らない技術のことである。ただし、いくら機体がレーダーに映らなくても、自分から電波を発してしまえば意味がない。そのため、不要な電波放射を抑えながら敵防空網を突破する運用が重視された。

2003年のイラク戦争でも、米軍はステルス機、電子戦機(敵のレーダーや通信を電波で妨害する専門機)、AWACS、巡航ミサイルを組み合わせたネットワーク化航空作戦を展開し、敵の防空システムが十分に対応する前に航空優勢を確保した。

そして2025年6月、イラン核施設への攻撃「Operation Midnight Hammer(ミッドナイト・ハンマー作戦)」は、EMCONの現代的な実践例として特に注目に値する。米統合参謀本部議長ケイン大将の会見によれば、7機のB-2ステルス爆撃機がミズーリ州ホワイトマン空軍基地から発進し、約18時間の飛行の間、複数回の空中給油を受けながら、通信を最小限に抑えて目標空域まで進出した。さらに、途上で護衛機・支援機と合流する複雑な同調機動──互いにほとんど話さずに、決められた時刻・場所でぴたりと落ち合う飛行──も、最小限の通信で実施されたとされる。

興味深いのは、この作戦で本隊とは別に、一部の機体が陽動(注意を引きつけるための見せかけの行動)として太平洋方面へ西進した点である。本隊が「電波的に沈黙」する一方で、陽動部隊にはあえて存在を認識させる。敵がそちらに注目している間に、本隊は静かに反対方向から接近する。EMCONは単なる「沈黙」ではなく、敵の電子情報収集を逆手に取った欺瞞(ぎまん:だますこと)と一体で運用されるということを示す好例と言える。

作戦後、ケイン大将は「イランの戦闘機は飛来せず、地対空ミサイルシステムは我々を探知しなかったとみられる」と述べており、ステルス性とEMCONの組み合わせが奇襲の成立に寄与したことがうかがえる。


【考察】Su-34の損失減少とEMCON

ウクライナ戦争初期、ロシア航空宇宙軍のSu-34は多くの損失を出した。開戦からわずか数日後の2022年2月28日には最初の撃墜が記録され、OSINT集計サイトOryx(写真や映像など視覚的証拠が確認できた損失のみを数える方式で知られる)によれば、2025年7月時点で41機のSu-34が破壊または損傷したとされる。開戦前の保有機数が約140機と推定されることを踏まえると、保有機の3割近くに相当する、決して小さくない数字である。

初期の損失の背景には、

  • ウクライナの強力な防空網(のちに米国製パトリオット・ミサイルも加わる)
  • 無誘導爆弾に依存した戦術:誘導できない爆弾を命中させるには目標近くまで低空で飛び込む必要があり、敵の防空火器の真っ只中に自ら入っていく形になった
  • 電子戦環境への対応不足

など、複数の要因があったと考えられる。前述のパイロット証言が語る「標準型Su-34による無誘導爆弾任務」や「Buk-M1による損害」は、この初期損失の構図と整合的である。

一方、近年は戦争初期ほどSu-34の撃墜事例は目立たなくなっている。当ラボは、この変化には少なくとも三つの要因が複合していると推定する。

第一に、滑空爆弾(UMPK)によるスタンドオフ攻撃への移行である。前線から数十km離れた地点から投弾できるようになったことで、防空ミサイルの射程圏に入る時間そのものを最小化した。

第二に、基地運用の変化である。ウクライナによるATACMS(エイタクムス:米国製の地対地ミサイル。射程約300kmで飛行場攻撃にも使われる)などを用いた飛行場攻撃を受け、Su-34部隊はより後方の基地へ退避したことが衛星画像分析から指摘されている。

そして第三に、通信管理の強化である。冒頭の証言の真偽は確認できないものの、暗号化無線を持たない機体では通信そのものを控え、秘匿通信を持つSu-34Mと任務を分担するなど、電波放射を抑制して敵の傍受・方向探知による位置把握を困難にする運用が図られている可能性は十分に考えられる。装備の制約から生じた「沈黙」であれ、戦術的選択としてのEMCONであれ、敵の電子情報収集から見れば結果は同じ──「探知できない航空機」である。

もちろん、損失減少の理由をEMCONだけで説明することはできない。しかし、電子戦が勝敗を左右する現代では、「電波を出さないこと」そのものが重要な生存戦術となっていることは間違いない。


【考察】民間航空機との決定的な違い

ここまで読んで、「無線を使わずに飛ぶなんて危険ではないのか」と感じた読者もいるだろう。実際、民間航空の世界では正反対の原則が徹底されている。

民間航空機は、安全な航空交通を維持するため、航空法やICAO(国際民間航空機関)のルールに基づき、航空交通管制(ATC)と継続的に通信を行い、自機の位置や高度を報告しながら飛行する。さらにトランスポンダーやADS-Bといった装置により、自機の位置・高度・速度は周囲へ常時自動発信されている。Flightradar24などのアプリで世界中の旅客機の位置が見られるのは、まさにこの仕組みのおかげである。民間機にとって「見つけてもらうこと」は、衝突を防ぐための安全そのものなのだ。

一方、軍用機は実戦において任務達成と生存性が最優先となる。そのため、各国軍の作戦命令や運用規則に従い、必要最小限の通信だけで任務を遂行する。

つまり、民間航空機は**「自らの存在を知らせながら安全に飛ぶ」のに対し、軍用機は「自らの存在をできるだけ知られずに任務を遂行する」**。

同じ空を飛びながら、電波に対する考え方は完全に逆である。この違いこそが、民間航空と軍事航空を分ける本質的な違いと言える。


おわりに

Su-34の秘匿無線に関するパイロット証言の真偽は、今後さらなる情報を待つ必要がある。当ラボとしても、公式発表や信頼性の高い一次情報が確認され次第、必要に応じて続報をお伝えしたい。

しかし、この話題は現代航空戦の本質を考える良いきっかけでもある。

これからの航空戦では、高性能な戦闘機を保有するだけでは勝てない。重要なのは、**「どれだけ敵に見つからずに飛び、任務を遂行できるか」**である。

ステルス性能だけでなく、無線通信、レーダー、データリンクなど、あらゆる電波放射を管理するEMCONは、米軍、ロシア軍、中国軍を問わず、現代空軍の基本思想となっている。

現代の航空戦では、「何を話すか」ではなく、**「いつ話さないか」**が、勝敗を左右する重要な要素になりつつある。


主な参照情報:

【本稿について】 本稿は、公開情報(OSINT:オシント。報道・SNS・衛星画像など誰でもアクセスできる情報を収集・分析する手法)に基づく当ラボの分析・考察であり、特定の軍事組織の内部情報に基づくものではありません。冒頭で言及したSu-34パイロットの証言は、X上の第三者がインタビュー内容を要約したものであり、本稿執筆時点で独立した検証はなされていない未検証情報です。記事内の推定・考察部分は、今後の情報公開により修正される可能性があります。

航空インテリジェンスラボ|2026年7月7日

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