ANA1502便の右エンジン停止は何を意味するのか──CFM56-7Bの過去の故障事例から整理する

Steven Byles from Yokohama, Japan, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons/【写真:ANAウイングスのボーイング737-800(JA80AN)。2021年9月24日、東京・羽田空港にて撮影。】
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この記事の要点

  • 2026年9月23日、ANA1502便(737-800)が上昇中に機体の振動と右エンジンのオイル高温を確認し、乗員が右エンジンを停止して那覇へ引き返した。原因は調査中である。
  • CFM56-7Bでは過去に、ファンブレード、補機駆動用ギアボックス(AGB)、ラジアルドライブシャフト、高圧タービンブレードの疲労破壊などが起きている。ただし、いずれも今回の原因を示すものではない。
  • 振動とオイル高温のどちらが先に起きたかが、FDR(飛行記録装置)解析の鍵になる(当ラボの見解)。
  • 国内の737-800は約140機。同型機への追加措置は、9月24日時点で確認できた範囲では報じられていない。

※専門用語は記事末の【用語解説】にまとめている。

目次

【事実】ANA1502便で何が起きたか

2026年9月23日、那覇発佐賀行きのANA1502便(ボーイング737-800、JA86AN、ANAウイングス運航)が、離陸後の上昇中にエンジンの不具合に見舞われ、那覇空港へ引き返した。

  • 20時58分ごろ、那覇を離陸した。
  • 21時19分ごろ、上昇中に機体の振動と右エンジンのオイル高温をコックピットの表示で確認した。乗員は右エンジンを停止し、優先着陸(管制官に優先して着陸させてもらうこと)を要請した。
  • 22時05分ごろ、那覇空港に着陸した。誘導路上で停止し、脱出スライドで乗客152人(幼児4人含む)と乗員6人が機外へ退出した。乗客3人が膝にすり傷などを負った。
  • 国土交通省は22時45分に重大インシデント(航空事故には至らなかったが、事故につながるおそれがあると認められた事態)と認定した。機体は現地で保全されている。

ここで押さえておきたいのは、右エンジンの停止が乗員による停止操作だと報じられている点である。エンジンが自ら停止したとは伝えられていない。原因は確認中であり、振動とオイル高温の発生順序も公表されていない。

【事実】CFM56-7Bとはどんなエンジンか

CFM56は、米GE Aerospaceと仏Safran Aircraft Enginesの合弁会社CFM Internationalが開発・製造する高バイパス比ターボファン(前方の大きなファンで大量の空気を送り込んで推力を得る、現代の旅客機で主流の方式)で、1982年に商業運航を開始した。737-800に搭載されるCFM56-7Bは、737NG(737-600/-700/-800/-900の総称)の専用エンジンである。豪州運輸安全局(ATSB)によれば、2023年時点で世界のフリート(同型エンジン全体)は約15,200基、累計約5億エンジン飛行時間、約2億5,800万サイクル(離陸から着陸までを1回と数える運用回数)に達していた。

構造は、回転数の異なる二つの軸を持つ2軸式である。低圧側では、前方のファンと3段の低圧圧縮機を4段の低圧タービンが駆動する。高圧側では、9段の高圧圧縮機を1段の高圧タービンが駆動する。空気は圧縮機で圧縮され、燃焼室で燃料と燃えて高温のガスとなり、タービンを回して後方へ排出される。

高速回転部を支えるベアリング(軸受)と潤滑用のオイル系統も欠かせない。燃料ポンプなどを駆動する補機類は、アクセサリーギアボックス(AGB、歯車を収めた箱)につながっている。高圧軸の回転は、インレットギアボックス(IGB)内のラジアルドライブシャフト(回転を伝える軸)を経てAGBへ伝えられる。

※模式図であり、過去の事例の故障箇所を示したものである。今回のANA1502便の原因箇所を示すものではない。

【事実】過去のCFM56-7B故障事例

2016年・2018年:ファンブレードの疲労破壊(サウスウエスト航空)

2016年の3472便では、ファンブレード(ファンの羽根)がダブテール(羽根の根元でディスクに差し込まれる部分)から疲労破壊(繰り返しの力で内部に亀裂が進み、ある時点で壊れる現象)した。ブレード自体はファンケースが封じ込めたが、破片が前方へ飛散して空気取り入れ口のインレットが脱落し、機体を損傷して客室の気圧が急に下がった。2018年の1380便では同じ部位のファンブレードが上昇中(約32,500ft、約9,900m)に破断し、外装カバーのカウルの破片が客室窓を破壊して乗客1人が死亡、8人が軽傷を負った。

この2件を受け、米連邦航空局(FAA)と欧州航空安全庁(EASA)は、超音波(音波で内部の亀裂を調べる検査)などによるダブテール検査を義務付けた。2018年4月に耐空性改善命令(AD、航空当局が安全上の是正を義務付ける命令)が緊急発出され(累計30,000サイクル以上のブレードは20日以内に超音波検査)、その後の改訂で検査間隔は1,600サイクルとなり、同年12月のAD 2018-26-01に至っている。

さらに、米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査では、ブレード破断時のカウル構造の脆弱性も焦点となった。FAAは2025年3月、737NGのインレットカウルやファンカウルの強化などを求めるADを確定させ、改修期限は2028年までとされている。

2017年:アクセサリーギアボックスの破損(サウスウエスト航空)

6月3日、タンパ発ロチェスター行き4635便の737-700が飛行中に右エンジンの故障に見舞われ、ワシントン・ダレス空港へ着陸した。NTSBの調査で、AGB内部のL3ギアシャフト(47歯の歯車付きの軸)が高サイクル疲労(細かな振動の繰り返しによる疲労)で破断し、AGBのケースを貫通した破片がファンカウルを損傷したことが判明した。破断の起点は、製造・修理工程の化学エッチングと機械加工の組み合わせで生じた粒界腐食(金属の結晶の境目が侵される腐食)とされる。負傷者はなかった。ファンブレードとは別の部位でも、回転系の内部部品の疲労がエンジン故障につながった事例である。

2023年:ラジアルドライブシャフトの破断(カンタス航空)

1月18日、オークランド発シドニー行きの737-800(VH-XZB)が高度36,000ft(約11,000m)の巡航中に、左エンジンの非指令停止(乗員が操作していないのにエンジンが止まること)に至った。ATSBの分解調査で、ラジアルドライブシャフトが2か所で破断していたことが判明した。この破断で高圧圧縮機の軸とAGBのつながりが失われ、燃料ポンプの圧力が喪失した。シャフトの損傷によりスターターで圧縮機を回せず、空中再始動もできなかった。同種のベアリング関連事象は2012年以降に世界で7件報告されていた。直前の整備で磁気チップ検出器やスカベンジスクリーン(いずれもオイル中の金属片を集める部品)を点検していたが、金属片汚染は確認されていなかった。

2024年:高圧タービンブレードの疲労破壊(カンタス航空)

11月8日、シドニー空港でV1(離陸を中止できる限界の速度)付近の離陸滑走中に、右エンジンが故障した。2026年4月のATSB最終報告書は、原因を高圧タービン(HPT)にある76枚のブレードのうち1枚のダブテール部に生じた疲労亀裂と結論づけた。この亀裂はプラットフォーム(ブレード根元近くの台座状の部分)より下側にあり、ボアスコープ(細いカメラでエンジン内部を見る検査)では確認できない位置だった。約1か月半前のボアスコープ検査でも異常は見つかっていない。エンジンはメーカー推奨の交換基準に近づいており、約2週間以内に取り外される予定だった。

【事実】国内で同型エンジンを搭載する機体

CFM56-7Bは737NGの専用エンジンであり、国内で運航される737-800はすべてこのエンジンを搭載している。各社の公表や報道を合算すると、国内の737-800は約140機である(時点は資料ごとに異なる)。

会社737-800の機数時点・備考
JALグループ(日本航空、日本トランスオーシャン航空、スプリング・ジャパンを含む)62機2026年3月31日現在(JAL公表)
ANAグループ(ANAウイングスが運航)39機2024年10月の運航一元化時点
スカイマーク29機2023年時点
ソラシドエア14機2023年時点
合計約140機数字を確認できた時期が会社ごとに異なるため、概数である

737-800以外の737NGを運航する会社もあり、上記に含まれない。機数は退役や更新で変動する。なお、エアバスA320ceoファミリー(ピーチなど)も同じCFM56ファミリーのエンジン(主に-5B)を搭載するが、CFM56-7Bとは別型式のため、上の表には含めていない。

【考察】過去の事例に共通するもの

これらの事例は、機体、故障部位、原因がそれぞれ異なる。2023年と2024年のカンタス航空の事例も、続けて起きたが、互いに関連するものではない。共通するのはエンジン型式である。

それでも、共通する点が一つある。外から見えない疲労亀裂や内部の損傷が、直前まで予兆なく進行していたことである。ブレード内部に亀裂があっても、ブレードが所定の位置にある間は、回転する部分全体の重さのバランスは大きく変わらない。分離した瞬間に急激なアンバランスと振動が生じるとみられる。そのため、飛行中の振動監視と、地上での非破壊検査(部品を壊さずに内部を調べる検査)は、互いに代替できない。

【考察】右エンジンの停止は乗員の判断とみられる

報道によれば、右エンジンは乗員が停止した。エンジンが自ら停止したとは伝えられておらず、当ラボは、振動とオイル高温という二つの兆候を受け、乗員が上空で予防的に停止した可能性が高いとみている。この状態で運転を続ければ、潤滑不良によるベアリングの損傷、火災、内部部品の飛散といった二次的な被害に発展するおそれがある。737-800は片方のエンジンでも飛行を継続できるため、状況の悪化を避けて停止するのは合理的な判断である。

したがって、エンジン停止はエンジンの損傷が最終段階に至ったことを意味するとは限らない。損傷が拡大する前に停止されていれば、内部の状態が保たれ、原因の特定に有利に働く可能性もある。実際の損傷の程度は、分解調査を待つ必要がある。

【考察】今回の「振動」と「オイル高温」をどう読むか

振動の強さは、回転速度の2乗に比例する(F=m・r・ω²。mは偏った重さ、rは回転の中心からの距離、ωは回転の速さ)。回転が2倍速くなれば、同じ偏りでも力は4倍になる。わずかなアンバランスでも大きな振動になり得るため、振動は原因ではなく、内部異常の結果として現れる症状である。一方、オイル温度の上昇は、潤滑・冷却の異常、ベアリング周辺の発熱、ギア系統の異常などを示し得る。AGBには潤滑油の供給ノズルがあり、ギア系統の損傷はオイル系統にも影響し得る。二つの現象の順序で、調べるべき範囲が変わる。

  • 回転部品の異常が先にあり、振動、発熱、オイル高温の順に進んだ場合は、ベアリング、シャフト、圧縮機、タービンの機械的異常が起点である可能性がある。
  • オイル循環や潤滑の異常が先にあり、ベアリングの発熱、損傷、振動の順に進んだ場合は、潤滑系統が起点である可能性がある。
  • ファン、圧縮機、タービンの損傷が先にあり、オイル系統とは別に発生した可能性も残る。
  • コンプレッサーストール(圧縮機内の空気の流れが乱れる現象)やサージ(その激しいもの)、鳥類や異物の吸入でも激しい振動は生じ得るが、これらだけでオイル温度の上昇を説明できるかは不明である。

現時点で「ベアリング故障」や「タービンブレード破損」と断定できる材料はない。過去の事例をそのまま当てはめるべきでもない。

今後の調査では、FDR(飛行記録装置。速度、高度、エンジンの状態などを記録している)の時系列が鍵となる。振動、N1、N2、EGT(排気ガス温度)、オイル温度、オイル圧力、オイル量を同じ時間軸に並べれば、最初に何が変化したかが見える可能性がある。振動がN1(ファンと低圧側の回転数)に同期するのか、N2(高圧側の回転数)に同期するのかも、損傷部位を絞り込む手掛かりになるとみられる。

実機では、ファン、圧縮機、タービン、ベアリング、ラジアルドライブシャフト、AGB、磁気チップ検出器、オイルフィルターの確認が焦点になるとみられる。金属片が見つかれば、材質分析で発生元の部品を絞り込める可能性がある。

【考察】国内の同型機への影響をどう見るか

国内に約140機ある同型機は、仮に今回の原因に共通する要素が見つかった場合、影響が広い範囲に及ぶことを意味する。ただし、今回の原因が型式に共通する問題なのか、この機体・エンジン個体に固有の問題なのかは、現時点では分からない。過去のADも、特定の部品番号や累積サイクルなど、対象を絞って発出されている。

JTSBの調査結果次第で、同型機への点検などの措置が出る可能性はある。2026年9月24日時点で、確認できた範囲では、国土交通省やANAから同型機に対する追加の措置は報じられていない。

【考察】CFM56-7Bは危険なエンジンなのか

過去の事例を並べると問題の多いエンジンに見えるが、母数を考える必要がある。2023年時点で約15,200基、約5億エンジン飛行時間の運用実績があり、ラジアルドライブシャフトの同種事象は2012年以降で7件だった(ATSB)。世界中で膨大な運用が積み重なるなかで、故障モードが把握され、点検方法、部品、交換基準が改良されてきたエンジンである。

安全は故障しない機械を作ることだけでは成立しない。原因の特定、点検間隔の見直し、非破壊検査の導入、部品の改良、そして故障しても被害を封じ込める設計が重なって維持される。今回の事案が既知の故障モードの一つなのか、まったく別の原因なのかは、振動という結果の数秒、数分前にエンジン内部で何が起きていたかを解明して初めて分かる。

【考察】今後の注目点

  • JTSBによるFDR解析と、右エンジンの分解調査の結果
  • 振動とオイル高温の発生順序
  • 同型機に対する国土交通省やANAの措置の有無

【用語解説】

  • 重大インシデント:航空事故には至らなかったが、事故につながるおそれがあると認められた事態。航空法で定められている。
  • 運輸安全委員会(JTSB):航空事故や重大インシデントの原因を調べる、国土交通省の外局の調査機関。
  • ターボファンエンジン/高バイパス比:前方の大きなファンが取り込んだ空気の大部分をエンジン本体の外側へ流し、推力を得る方式。
  • ファン・圧縮機・タービン:ファンは空気を取り込む前方の大きな羽根。圧縮機は空気を圧縮する羽根の列。タービンは燃焼ガスの勢いで回り、ファンや圧縮機を駆動する羽根の列。いずれも低圧側と高圧側がある。
  • ブレード/ダブテール:ブレードは羽根。ダブテールは羽根の根元にあり、ディスクの溝に差し込まれる部分。
  • N1・N2:エンジンの二つの軸の回転数。N1はファンと低圧側、N2は高圧側。
  • ベアリング(軸受):回転する軸を支える部品。高速回転のため、オイルによる潤滑と冷却が欠かせない。
  • アクセサリーギアボックス(AGB)/インレットギアボックス(IGB):エンジンの回転を、燃料ポンプなどの補機へ伝える歯車の箱。
  • ラジアルドライブシャフト:エンジン中心の回転を、IGBを経てAGBへ伝える軸。
  • 疲労破壊/高サイクル疲労・低サイクル疲労:繰り返しの力で内部に亀裂が進み、やがて壊れる現象。低サイクル疲労は離着陸のような回数の少ない大きな負荷の繰り返しで、高サイクル疲労は細かな振動の繰り返しで生じる。
  • 粒界腐食:金属の結晶の境目が選択的に侵される腐食。
  • 非破壊検査(超音波探傷・渦電流探傷):部品を壊さずに内部の亀裂を調べる検査。超音波探傷は音波を、渦電流探傷は電気の流れの乱れを利用する。
  • ボアスコープ:細いカメラを差し込んで、エンジン内部を分解せずに見る検査。
  • 磁気チップ検出器/スカベンジスクリーン:オイル中の金属片を集める部品。金属片は、内部の異常な摩耗や損傷を知る手掛かりになる。
  • 耐空性改善命令(AD):航空当局が、安全上の問題を是正するよう義務付ける命令。
  • コンプレッサーストール/サージ:圧縮機内の空気の流れが乱れる現象。サージはその激しいもので、空気が逆流し、大きな音や振動を伴う。
  • FDR(飛行記録装置):飛行中の速度、高度、エンジンの状態などを記録する装置。
  • EGT:エンジンの排気ガス温度。
  • OSINT:公開情報を集めて分析する手法。

参考リンク

【付記】

※本記事は公開情報に基づくOSINT分析である。原因は運輸安全委員会(JTSB)の調査で確定するものであり、本記事の考察は当ラボの見解である。

本記事は事案の原因を断定するものではない。2026年9月24日時点の情報であり、JTSBの調査により内容が変わる可能性がある。

―航空インテリジェンスラボ|2026年9月24日

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