737のFMS不具合は「安全上の懸念なし」で終わりか?ミスドアプローチに残る論点【航空技術】

lamblukas, CC BY 2.0 , via Wikimedia Commons/【写真:Boeing737-10 型機】
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目次

要点

  • FAAは、737のFMC(飛行管理コンピュータ)ソフトウェアU14.0/U14.1で見つかったVNAV(垂直航法)解除の挙動について、耐空性上の「unsafe condition」には当たらないと判断した。
  • 対象は737 MAXだけではない。737NGのうち、同じソフトウェアを搭載した機体も含まれる。
  • この判断で、737-10の型式証明を阻んでいた要因の一つが取り除かれた。
  • 一方、「機体を操縦できる」ことと、「高ワークロード下で乗員がモードの変化に即座に気づける」ことは別の論点である。当ラボは後者に注目する。

専門用語は、末尾の【用語解説】にまとめた。

【事実】FAAは何を判断したのか

経緯

  • Boeingは2024年11月に、運航者からこの事象の報告を受けたとされる。
  • 2026年8月、Boeingは運航者へ通知した。この時点では、直ちに安全上のリスクとなる問題ではないとの説明だった。
  • 航空会社からの追加の情報提供を受け、Boeingは9月に正式な安全性レビューを開始し、結果をFAAに共有した。
  • 9月28日、FAA長官は、この問題の評価が終わるまで737-10の認証作業を進めない方針を明らかにした。
  • 10月2日(金)、FAAのCARB(是正措置審査委員会)が、この問題は安全上の懸念には当たらないと判断した。理由は、操縦士が機体の制御を維持でき、乗員への表示が明確で曖昧さがないことである。
  • 同日付で、BoeingはFCOM(運航乗務員用マニュアル)Bulletin「PCR-3808」を発行した。
  • 10月3日付で、FAAはSAIB(特別耐空性情報速報)2026-17を発行した。

SAIB 2026-17の位置づけ

SAIBは情報提供の文書であり、推奨事項に強制力はない。FAAは、現時点では耐空性改善命令(AD)を要する unsafe condition には当たらないとしている。

対象は、FMC U14.0またはU14.1を搭載した737NG(-600/-700/-800/-900/-900ER)と737 MAX(7/8/9/8200)である。MAX固有の問題ではない。

不具合の内容

問題はFMCのソフトウェアU14.0/U14.1にある。U14.0は2020年ごろ、U14.1は2022年初めから搭載が始まったとされ、供給元はGE Aerospaceと報じられている。U14.1は、FMCの再起動に関する既知の不具合を修正するために作られた。FAA長官は、その修正が別の不具合を持ち込んだと説明した。VNAVの問題は、先に修正された再起動の問題より小さいとも述べている。

報道によれば、発生条件は次のとおりである。

  1. 精密進入を、オートパイロット作動中に実施する。
  2. ミスドアプローチ(ゴーアラウンド)を行う。
  3. その後、乗員がプログラム済みの経路を変更する。

この場合、VNAVが解除され、垂直方向の誘導がLVL CHGやV/Sなど、より単純なモードに移行することがある。経路変更の内容について、進入手順の外にある地点へのDirect-Toだとする報道もある。

FMCが全面的に停止するわけではなく、機体が操縦不能になるわけでもない。特定の操作順序が重なったときだけ起きる条件依存の事象であり、他の運航者からの報告は少ないとされる。WestJetは、同社の運航で関連する事案は記録していないと述べている。

Boeingは当初、乗員にはVNAVなしで着陸する手順と訓練があるとして、直ちに安全上のリスクとなる問題ではないと説明していた。これに対し、FAAが論点としたのは、乗員のワークロードである。

航空会社と737-10への影響

UnitedとSouthwestは、U14系を搭載した新造MAXの受領を拒否し、従来版のU13を希望していると報じられている。

737-10の認証試験にはU14.1が使われていた。FAAは、この問題が737-10の認証に支障を与えないと判断した。ただし、本稿の執筆時点で、737-10の型式証明は取得されていないとみられる。Boeingは恒久的なソフトウェア修正の開発を続けているとされる。

【事実】過去の事例が示す「認識の食い違い」

以下の3件は、技術的なメカニズムがいずれも今回と異なる。同列には扱えない。共通するのは、乗員が想定していた自動化の状態と、実際の状態がずれたという構図である。

Air France 072便(1993年・タヒチ)

  • 非精密進入(VOR/DME)の最中で、副操縦士が手動操縦し、オートスロットルが作動、フライトディレクターのモードはVNAVだった。
  • ミスドアプローチポイント(約500ft)で、VNAVの設計どおりにゴーアラウンドが自動で指令され、スロットルが前進した。オートパイロットは未接続のため、機体の姿勢は変化しなかった。
  • FAAのLessons Learnedによれば、乗員は約20秒間、推力の増加に気づかなかった。
  • 副操縦士は手でスロットルを戻して着陸を続行した。着陸直前に1番エンジンのスロットルが手から外れて前進し、自動ブレーキとスポイラーが作動しなかった。機体は右へ逸脱し、滑走路脇のラグーン(潟)で停止した。全員が避難し、軽傷者は4名だった。
  • システムは設計どおりに作動していた。BEAの調査では、メーカーがこの挙動を運航者へ十分に伝えておらず、訓練も行われていなかったことが寄与要因とされた。

China Airlines 140便(1994年・名古屋)

  • ILS進入中、副操縦士が誤ってGO leverを操作し、FDがGO AROUNDモードに移行して推力が増加した。
  • 乗員はオートパイロットを接続し、GO AROUNDモードのまま進入を続けた。操縦桿を押し込む入力と、自動トリムによる水平安定板のnose-up方向への動きが対立した。
  • 最終的に失速して墜落し、271名のうち264名が死亡した(航空事故調査委員会の報告に基づく)。

Qantas 737(2019年・シドニー)

  • 2019年8月5日、滑走路34Rに進入中のQantas 737-800(VH-VZO)に、訓練中の管制官が滑走路間隔を確保できないと判断してゴーアラウンドを指示した。
  • ATSBによれば、同機は滑走路方向のまま上昇し、ミスドアプローチ手順が定める600ftでの右旋回を行わず、約10秒後に管制官から旋回を指示された。
  • 離陸した同社のA330と針路が交錯し、水平約0.42NM、垂直約508ftまで接近した。A330にはTCASのTAが作動した。
  • ATSBは、個々には軽微な要因の積み重ねが重大インシデントに至ったと結論づけた。管制側の要因(間隔設定、訓練、手順設計)も多く含まれる。
  • Qantasは、自社の737のFMCに入力されたミスドアプローチのコーディングを更新した。事案を伝える報道では、8つの進入でミスドアプローチポイントが誤って登録されていたとされる。

【考察】当ラボの見解

1. 「操縦可能」と「認識できる」は別の評価軸である

FAAの判断は、機体を操縦できること、表示が明確であることを根拠としている。これは耐空性の評価として筋が通っている。Boeingも、VNAVなしで飛ぶ手順と訓練があると説明している。

一方、ヒューマンファクターの観点では、表示されていることと、乗員がその瞬間に認識して意味を理解していることは同じではない。FAA自身がワークロードを論点にしていた点も、この区別を裏付けている。問われるのは、VNAVなしで飛べるかどうかよりも、VNAVが外れたことに適切なタイミングで気づけるかどうかである。

2. ミスドアプローチは認識が遅れやすい局面である

ミスドアプローチでは、推力、姿勢、フラップ・ギア操作、ATCとの交信、FMC操作、次の行動の判断が短時間に重なる。悪天候下であれば、外部の視覚参照も乏しい。

そこで乗員が「VNAVが管理している」と想定している一方、実際には別のモードに移行していれば、高度や経路の逸脱が起こり得る。ミスドアプローチは、モード変化に気づく余裕が最も小さくなる局面の一つとみられる。

ただし、本件の引き金は、復行後の経路変更という特定の操作である。他の運航者からの報告が少ないという状況とあわせて考える必要がある。

3. 過去事例から読み取れること

3件は原因がそれぞれ異なる。Air France 072便は、自動化が設計どおりに動いていても、乗員の理解が追いつかなかった例である。China Airlines 140便は、乗員の意図と自動化の動作が対立した例である。Qantasの事案は、ミスドアプローチ直後の経路管理がずれた例だが、管制側の要因も大きい複数要因の事案である。

今回の問題を考える際の参照点にはなるが、同種の事故が起きると示すものではない。

4. 航空会社が旧バージョンを望む理由

運航実績が長く、挙動が知られているソフトウェアには、予測可能性という利点がある。乗員のメンタルモデルと機体の挙動が一致している限り、認識の食い違いは起きにくい。UnitedとSouthwestが従来版を選ぶのは、運航上は理にかなった判断と当ラボはみている。

5. 今後の注目点

  • 恒久修正版のソフトウェアが、条件依存のモード遷移をどう改善するか。
  • 航空会社がU14系をどのように導入していくか。
  • 訓練と運航手順で、mode confusionやautomation surpriseの可能性をどこまで抑えられるか。
  • ミスドアプローチ中に経路を変更した後、FMAで垂直モードを確認する運用が、各社でどこまで徹底されるか。

「安全上の懸念なし」は、機体を安全に制御できるかという耐空性の問いへの答えである。乗員が自動化の状態を、必要なときに正しく認識できるかという問いには、まだ答えていない。この2つを分けて見ることが、今回の問題を読む際の要点と当ラボは考える。

【用語解説】

システム・モード関連

  • FMS / FMC:飛行管理システム(Flight Management System)と、その中核のコンピュータ(Flight Management Computer)。経路、高度、速度などを計算し、自動操縦に指令を出す。
  • VNAV:垂直航法(Vertical Navigation)。FMCが計算した高度・速度の制約に沿って、上昇・降下を自動で誘導するモード。
  • LNAV:水平航法(Lateral Navigation)。FMCに登録された経路に沿って水平方向を誘導するモード。
  • LVL CHG / V/S:VNAVより単純な垂直モード。LVL CHG(Level Change)は、選択した高度まで推力と速度を管理しながら上昇・降下する。V/S(Vertical Speed)は、選択した上昇率・降下率を保つ。
  • FMA:モード表示器(Flight Mode Annunciator)。現在作動している自動飛行モードを、操縦席のディスプレイ上部に表示する。
  • フライトディレクター(FD):操縦の目安を示す指示バー。
  • Direct-To:FMC上で、指定したウェイポイントへ直行する経路に変更する操作。
  • オートスロットル:推力レバーを自動で動かし、速度や推力を調整する装置。
  • 水平安定板 / トリム:水平尾翼の角度を変えて、機首の上げ下げの釣り合いを取る仕組み。

運航・進入関連

  • ミスドアプローチ(進入復行)/ ゴーアラウンド:着陸を断念して上昇し、再進入や待機、代替空港への移動に移ること。本稿では、ほぼ同じ意味で使っている。
  • ミスドアプローチポイント(MAP):この地点までに必要な視覚参照が得られなければ、復行すると定められた地点。
  • 精密進入 / 非精密進入:精密進入(ILSなど)は、水平・垂直の両方に電波のガイダンスがある。非精密進入(VOR/DMEなど)は、垂直方向のガイダンスがない。
  • GO lever:ゴーアラウンドを作動させるスイッチ。China Airlines 140便が使っていたA300-600Rでの呼び方。
  • ATC:航空管制。
  • IMC:計器気象状態。雲や視程のため、外の視覚参照に頼れず、計器で飛ぶ状態。
  • TCAS TA:衝突防止装置が出す交通情報(Traffic Advisory)。接近する航空機を知らせるもので、回避操作の指示ではない。

規制・認証関連

  • 型式証明:航空機の設計が耐空基準に適合していると、当局が認める証明。
  • unsafe condition:耐空性上の危険な状態。FAAがこれを認定すると、耐空性改善命令の根拠になる。
  • 耐空性改善命令(AD):unsafe conditionを是正するために、FAAが出す強制力のある命令。
  • SAIB:特別耐空性情報速報。規制ではなく、情報提供と推奨を目的とする文書。
  • CARB:是正措置審査委員会(Corrective Action Review Board)。FAAの専門家が、不具合が安全上の問題に当たるかを評価する会議体。

機関名

  • FAA:米連邦航空局。
  • ATSB:オーストラリア運輸安全局。
  • BEA:フランスの航空事故調査機関。

ヒューマンファクター関連

  • ワークロード:乗員が処理しなければならない作業や判断の量。
  • メンタルモデル:「この操作をすれば機体は次にこう動く」という、乗員が持つ理解。
  • mode confusion(モード混乱):乗員が、自動化の現在のモードを取り違えること。
  • automation surprise(自動化による予期しない挙動):自動化が乗員の予想とは異なる動作をして、乗員が驚くこと。

参考リンク

【付記】

  • 本稿は公開情報(OSINT)に基づく当ラボの分析である。事実関係は2026年10月7日時点で確認できた範囲に限る。
  • 本稿は、各当局・メーカー・航空会社の公式見解を代弁するものではない。
  • 発生条件の詳細(Direct-Toの扱いなど)は、報道間で表現に差がある。SAIB 2026-17およびBoeingのPCR-3808の原文は、本稿の作成時点で直接確認できていない。
  • 737-10の認証状況やBoeingの修正スケジュールは、今後変わる可能性がある。
  • 2019年のQantas事案は、ATSBが複数要因の事案として整理している。FMCのコーディング誤りがどこまで寄与したかは、本稿では断定しない。

―航空インテリジェンスラボ|2026年10月7日

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