ロシアSu-35S 2機がクルスク州で空中衝突 ―― ドローン戦争がもたらす「見えない航空戦力の消耗」、日本も他人事ではない

Dmitry Terekhov from Odintsovo, Russian Federation, CC BY-SA 2.0 , via Wikimedia Commons/【写真:ロシア空軍のSu-35S型戦闘機】
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ロシア西部、ウクライナと国境を接するクルスク州で、ロシア航空宇宙軍のSu-35S戦闘機2機が空中衝突したとの情報が伝えられた。

ロシア軍航空に近いTelegramチャンネル「Fighterbomber」(運営者はロシア空軍大尉イリヤ・トゥマノフ氏とされる)が9月7日夕方に投稿し、複数のロシア系メディア・チャンネルがこれを引用して報道している。ロシア国防省による公式発表は現時点で確認できておらず、事故発生の正確な時刻・高度・地点・任務内容など、事故分析に不可欠な情報の多くは未確認であることを、まず断っておきたい。

この記事のポイント

  • 9月7日夕方、クルスク州上空でロシア軍Su-35S戦闘機2機が空中衝突。パイロット1名死亡、1名は射出・負傷。ロシア国防省の公式発表はなく、原因は未確認。
  • 事故当日、クルスク州はUAV攻撃に対する防空活動が継続しており、事故第一報(19時13分)は同地の日没時刻(19時11分)とほぼ一致。事故前後の24時間でUAV撃墜数はむしろ増加していた。
  • Su-35Sは単座機で新人訓練には使えず、クルスク州は事実上の前線地域であることから、訓練より実任務中だった可能性の方が高いと当ラボは分析。湾岸戦争・2026年イラン戦争・ウクライナ側の先例も、実任務の高負荷が非戦闘損失(事故)を招くという同型のパターンを示している。
  • この種の「高負荷による非戦闘損失」はロシアに限った話ではない。航空自衛隊も年間595回規模の緊急発進を続けており、日本にとっても「スクランブル疲労」への備えが今後の課題となる。

目次

【事実】確認できている情報

  • 9月7日夕方、クルスク州上空でSu-35S 2機が空中衝突した。
  • 「Fighterbomber」が第一報を発信し、軍事系ジャーナリストのユーリー・コテノク氏も同日中に情報を確認・拡散した。
  • ロシア系チャンネル「Воевода Вещает」(ロシア航空宇宙軍将校アレクセイ・ゼムツォフ氏が運営とされる)および地元メディア「Пепел.Курск」は、パイロット1名が死亡し、もう1名は射出(イジェクト)して生存したものの負傷したと報じている。
  • 事故原因・経緯についてロシア国防省からの公式コメントは、本稿執筆時点で確認できていない。
  • 「Fighterbomber」の投稿は、間接的にウクライナ側を非難する内容を含んでいたと報じられているが、ウクライナ側は本件への関与を認めておらず、UAVないし他の要因との直接的な因果関係を示す確たる証拠は現時点で存在しない。
  • Fighterbomberの第一報の投稿時刻は**9月7日19時13分(モスクワ時間)**であったことが、複数の引用報道から確認できる。
  • クルスク市における同日の日没時刻は19時11分(市民薄明終了は19時14分ごろ)であり、天文計算に基づく独立データとして確認できる。すなわち、事故の第一報が出た時刻と日没時刻の差はわずか約2分であり、両者が近接していたことは事実として裏付けられる。ただし、これは「第一報の時刻」と「日没時刻」が近接していたことを示すものであり、衝突そのものの発生時刻を示すものではない点に留意が必要である。
  • ロシア国防省は、9月7日08時〜20時の12時間に、クルスク州を含む複数州でUAV32機を撃墜したと発表した。この時間帯は事故第一報の時刻(19時13分)を含んでいる。
  • クルスク州のアレクサンドル・ヒンシュテイン州知事は9月7日朝、前24時間(9月6日09時〜7日09時)の状況として、州内でUAV133機を撃墜、砲撃90回、爆発物によるUAV攻撃14回を記録したと発表した。同期間の人的被害はなかったとされる。
  • さらに、事故を挟む次の24時間(9月7日09時〜8日09時)についても、同州知事はUAV161機を撃墜したと発表しており、前日の133機から件数が増加している。
  • ロシア国防省はまた、9月7日20時〜8日08時の夜間にクルスク州を含む15地域でUAV384機を撃墜したと発表しており、事故第一報の直後から翌朝にかけても、クルスク州上空は継続的な防空活動下にあったことが確認できる。
  • Su-35Sは、Su-34など攻撃機の護衛、地上部隊支援、ウクライナのUAV・巡航ミサイルへの迎撃、ウクライナ防空システムへの対処など、複数の任務に使用される多用途戦闘機である。

一方で、以下の項目については、本稿執筆時点の調査では独立した一次情報源による裏付けを確認できなかった。

  • 防空警戒の発令・解除にかかる分刻みの時系列(例:前夜21時台の危険発令、22時台の爆発音報告、当日朝07時台・08時台の危険発令・解除など)。
  • 2機が「飛行場付近ではなく、ある程度高度を取った状態」で衝突したとする情報。

これらは今後の続報を待って検証すべき項目として留保する。


【考察】単発の事故として片づけるべきではない理由

現時点で確認できていないことの方が多い。正確な衝突時刻、飛行高度、事故地点、両機の任務内容、疲労や視界状況の関与――いずれも不明である。したがって、「ウクライナのドローン攻撃によってSu-35S 2機が衝突した」と結論づけることは、現段階では適切ではない。

一方で、事故前日から当日、さらに事故後の夜間にかけても、クルスク州は高いレベルの防空活動下に置かれ続けていた。UAV撃墜数は事故前24時間で133機、事故を挟む次の24時間で161機とむしろ増加し、事故第一報が出た19時13分もロシア国防省発表のUAV迎撃時間帯(08時〜20時)に含まれている。これらの数字は、この地域の航空・防空システムが、事故の前後を通じて継続的に高い負荷を受けていたことを示している。

ここで重要なのは、個々の事故原因の特定以上に、ウクライナによるロシア領内への長距離UAV攻撃の常態化が、ロシア航空宇宙軍にどのような「間接的消耗」をもたらしているかという視点である。

UAV警報 → 防空部隊の警戒態勢 → 戦闘機のスクランブル・CAP・迎撃 → 帰投 → 再びUAV警報、というサイクルが繰り返されれば、負荷を受けるのは戦闘機だけではない。パイロットの疲労、地上管制・整備員の労働時間、機体の飛行時間・部品交換周期など、航空作戦を支えるシステム全体に累積的な負荷がかかる。

これは軍事分析上、**Combat Loss(戦闘損失)とNon-Combat Loss(非戦闘損失)**を区別して捉える必要性を示唆する。ドローンが戦闘機を直接撃墜しなくても、「相手に飛行と警戒を強制し続けること」自体が、長期的には航空戦力を消耗させる間接的な効果を持ちうる。

ただし、この仮説を今回のSu-35S事故ひとつで実証することはできない。事故率を論じるには「事故件数」ではなく「事故件数÷総飛行時間」あるいは「事故件数÷出撃回数」といった分母付きのデータが必要であり、戦時下のロシアからこうした詳細データが継続的に公開される可能性は低い。加えて、軍用機の事故原因・所属部隊・任務内容・飛行時間・勤務状況は、相手側に戦力運用能力を分析する材料を与えるため、戦時下ではそもそも情報公開自体が抑制されやすい。

したがって、今後ロシア軍航空機の事故を分析する際には、「実際に発生している事故」と「外部から確認できる事故」は同じではない、という前提を持つ必要がある。

訓練飛行や単純なフェリー飛行だった可能性はどこまであるのか

現時点でロシア側は、事故機2機がどのような任務に就いていたのかを公表していない。したがって、訓練飛行やフェリー飛行だった可能性も完全には排除できない。

しかし、事故が発生したクルスク州はウクライナ国境に近く、事故当日もUAVに対する防空活動が続いていた。この作戦環境を考えると、純粋な訓練飛行よりも、CAP、迎撃、護衛、航空警戒など何らかの実任務に関連した飛行だった可能性を優先的に検討する必要がある。

また、単純なフェリー飛行であれば、複数機は通常、適切な水平・垂直・時間間隔を維持して飛行する。2機が互いに接触するほど近接する必要性は基本的に低い。一方、迎撃や戦術編隊飛行では、旋回、加減速、高度変更、編隊位置変更、地上管制からの指示、目標への追従など、航空機同士の相対運動が複雑になる。

そのため、もし今回の2機が何らかの作戦任務中だったことが今後確認されれば、単純な飛行中の事故ではなく、戦時下特有の高い作戦負荷の中で発生した空中衝突として分析する必要が出てくる。ただし、現時点では任務内容は確認されておらず、「UAV迎撃中だった」「戦闘任務中だった」と断定することはできない。

また、ロシアという国の特殊性も考慮する必要がある。米国であれば、海外への派兵・展開はあっても本土そのものが交戦地域になることは基本的にない。新人パイロットの初期訓練は、脅威のない後方の基地・空域で行われるのが通常である。しかしロシアの場合、事情が異なる。クルスク州は、本稿で確認した通りUAV・砲撃による攻撃が常態化している、事実上の前線地域である。このような地域で経験の浅い新人パイロットの基礎訓練を行う合理性は低い。

加えて、機体そのものの仕様も踏まえる必要がある。Su-35Sは単座(一人乗り)の多用途戦闘機であり、教官が同乗して操縦を指導する複座型(練習機仕様)ではない。したがって、経験の浅い新人パイロットに対する操縦教育・慣熟訓練にSu-35Sを用いることは、機体の性質上考えにくい。ロシア空軍には複座型のSu-30SMなど、操縦訓練によりふさわしい機体が別に存在する。

この点を踏まえると、仮に今回の飛行が「訓練」を含むものであったとしても、基礎的な操縦訓練であった可能性は低い。加えて、戦術訓練・編隊訓練も、前線地域で行うことは可能性が低いと考えられる。そうした訓練は本来、脅威のない後方空域で行うのが合理的であり、UAV攻撃や防空活動が常態化している前線地域であるクルスク州で、わざわざ訓練目的の飛行を行う必然性は乏しい。危険にさらす理由がないだけでなく、実際の防空任務の妨げにもなりかねないからである。

したがって、今回の2機がクルスク州上空を飛行していた理由としては、訓練よりも、CAP、迎撃、護衛、航空警戒といった何らかの実任務であった可能性の方が、状況的にはより自然であると考えられる。いずれにせよ、「訓練だったから軍事的に無関係」と単純に片づけられる状況ではない、という点は指摘しておきたい。

Alex Beltyukov, CC BY-SA 3.0 GFDL 1.2, via Wikimedia Commons/【写真:ロシア空軍のSu-30SM型戦闘機】

高強度の実任務が非戦闘損失を招くという先例

なお、こうした「高強度の実任務が空中衝突を含む非戦闘損失を増加させる」という現象自体は、決して目新しいものではない。過去の高強度航空作戦においても繰り返し見られてきたパターンである。

湾岸戦争(1991年)では、多国籍軍が失った航空機75機のうち、敵の行動によらない事故(非戦闘損失)が33機(固定翼15機、ヘリコプター18機)に上り、イラク側の対空防御による損失(42機)とほぼ同規模だった。100,000ソーティを超える高い出撃頻度が、戦闘による損失とは別に、事故という形での消耗を生んでいたことを示す数字である。

より直接的な先例として、2026年のイラン戦争が挙げられる。同年3月12日、イラク西部上空で給油任務中の米空軍KC-135給油機2機が空中衝突する事故が発生した。1機(機体番号59-1444)は空中で分解して墜落し、搭乗していた乗員6人全員が死亡。もう1機(63-8017)は垂直尾翼上部を失いながらもイスラエルのベングリオン空港に緊急着陸した(米中央軍公式発表)。この事故は訓練中ではなく、高強度の実作戦任務の最中に発生したものであり、Bloombergは同月「高強度の航空作戦により米軍機の損失が増加している」と、作戦テンポと機体損失の関係を直接指摘する記事を配信している。

このKC-135の事例は、「実戦環境下では、訓練ではなく実任務そのものの高い作戦負荷が空中衝突を引き起こしうる」という構造を示す直接的な先例であり、今回のクルスク州でのSu-35S 2機の衝突を分析するうえでも参考になる。

なお、このような「実任務中の空中衝突」はロシア側だけの現象ではない。ウクライナ側にも同種の先例がある。2023年8月25日、ジトーミル州上空で、ウクライナ空軍のL-39練習・軽戦闘機2機が戦闘任務の遂行中に空中衝突し、両機に搭乗していたパイロット3人全員が死亡した。犠牲者には、西側諸国に対して近代的戦闘機の供与を粘り強く訴え続けていたパイロットも含まれていた(ウクライナ国家捜査局が事故原因を調査)。この事例は、実戦下での高い作戦テンポが、装備や訓練水準にかかわらず、双方の空軍に同種のリスクをもたらしうることを示している。

燃料事情から見ても訓練飛行は考えにくい

当ラボは以前、日本発のジェット燃料が韓国・麗水沖での瀬取りを経由してロシア向けに流れているとみられる事案を分析した。その際確認した通り、ロシアは2026年6月にジェット燃料の輸出を自ら禁止し(当初7月末まで、後に11月末まで延長)、Kplerのデータではロシアのジェット燃料輸出量は日量約3万バレルから約1.3万バレルまで落ち込んでいた。すなわち、ロシアは「輸出国」から実質的に「輸入に頼らざるを得ない国」へと立場を変えつつある。

ウクライナ国防省情報総局(GUR)は2026年8月、ロシアがエジプト経由でJet A-1燃料(Su-35Sを含むロシア軍用機に使用可能)を調達していると発表したが、この調達ルートも制裁下での限定的な確保にとどまるとみるのが自然である。西側の制裁下でロシアが確保できる航空燃料の量には、麗水沖の瀬取り事案が示したように構造的な制約がある。したがって、仮にこうした調達で燃料を確保できたとしても、戦時下では即座に実任務での消費に回され、備蓄として温存される余地は乏しいと考えるのが妥当だろう。なお、ロシアエネルギー省は8月、「航空燃料に不足はない」と公式に否定しており、この点は当局発表として留保する必要がある。

【当ラボの見解】以上を踏まえると、ロシアの航空燃料調達が制裁下で構造的に制約されている以上、確保した燃料は温存されず戦時下ではすぐに消費されると考えられる。この状況下でクルスク州のような実戦環境にSu-35S 2機を投入した純粋な訓練飛行だった可能性は、作戦飛行だった可能性と比較すれば相対的に低いと当ラボは見る。ただし、これは公開情報からの推定であり、燃料事情と今回の任務内容を直接結びつける一次情報は存在しない。


航空インテリジェンスラボの見解

今回のSu-35S 2機の空中衝突について、ウクライナによるUAV攻撃との直接的な因果関係を示す証拠は現時点で確認されていない。事故原因についての断定は避けるべきである。

一方で、本稿で検討した状況証拠は、ある程度一貫した方向を示している。クルスク州は事実上の前線地域であり、Su-35Sは単座機で新人訓練に用いる機体ではない。制裁下での燃料事情を踏まえても、温存より即消費が合理的な選択となる。これらを重ね合わせると、今回の2機は訓練やフェリー飛行ではなく、CAP・迎撃・護衛・航空警戒といった何らかの実任務中だった可能性の方が高いと当ラボは見る。ただし、これはあくまで公開情報に基づく推定であり、任務内容そのものを直接示す一次情報は存在しない。

そのうえで、より大きな構造の話をしたい。ウクライナによるロシア領内への長距離UAV攻撃がさらに常態化すれば、ロシア航空宇宙軍が受ける負荷は「撃墜された航空機の数」だけでは測れなくなる可能性がある。頻繁な警戒態勢、スクランブル、CAP、夜間・薄暮飛行、パイロットの疲労、地上管制・整備員の負荷、機体・エンジンの飛行時間増加――これらは一つ一つを見れば戦闘損失ではない。しかし長期間積み重なれば、航空戦力全体を少しずつ消耗させていく。湾岸戦争やイラン戦争、ウクライナ側の先例が示す通り、こうした非戦闘損失は決して例外的な現象ではなく、高強度の実作戦が続く戦場では繰り返し起きてきたパターンである。

つまりドローン戦争には、「敵機を撃墜することで航空戦力を削る」という直接的効果に加え、「敵に飛行と警戒を強制し続けることで航空戦力を削る」という間接的効果が存在する可能性がある。今回のSu-35S事故はこの仮説を証明するものではないが、その可能性を考えるうえで注視すべき一つのケースである。

そして、この構造は今後さらに強まっていく見通しがある。ウクライナのゼレンスキー大統領は2026年7月、ロシア領内・支配地域への長距離攻撃を指揮する特別司令部を新設し、8月28日には長距離UAVの投入規模を日量約300機から1000機へと3倍以上に拡大するよう軍に指示したことを明らかにした。クルスク州のようなロシア国境地域が受ける防空負荷は、今後さらに増していく可能性が高い。ウクライナ側の長距離攻撃能力が拡大を続けるとすれば、今回のような空中衝突は「一度きりの事故」ではなく、ロシア航空宇宙軍にとって今後繰り返し発生しうる構造的なリスクとなる。それは、直接の撃墜数には表れない形で、じわじわと戦力を蝕んでいくだろう。

今後ロシア領内へのUAV攻撃がさらに高頻度化するなら、「撃墜数」だけでなく「非戦闘損失」の推移にも注目する必要がある。


これはロシアだけの問題ではない――日本が考えるべき「スクランブル疲労」

今回のSu-35S事故の原因はまだ確認されていないが、ここまで見てきた「高強度の実任務が非戦闘損失を招く」という構造は、ロシアだけの問題ではない。日本周辺でも、中国軍機やロシア軍機の活動が常態化しており、航空自衛隊は年間数百回規模の緊急発進を続けている。2025年度の緊急発進は595回で、このうち中国機に対するものが約61%(約366回)、ロシア機に対するものが約36%(約214回)を占めた。つまり航空自衛隊の戦闘機部隊は、ほぼ一年を通じて継続的に実任務へ対応していることになる。

ここで重要なのは、スクランブルは単なる飛行訓練ではないということである。レーダーサイトが接近する航空機を探知すると、戦闘機は緊急発進し、対象機へ接近する。そこで相手機の機種、位置、高度、速度、飛行方向、行動を確認し、必要に応じて通告や警告を行う。状況によっては、相手機がどのような意図を持っているのかを短時間で判断しなければならない。これは実戦に極めて近い緊張を伴う任務である。

2024年9月23日には、ロシア軍のIL-38哨戒機が北海道・礼文島北方で3度にわたり日本領空を侵犯した。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させ、通告・警告を実施したうえで、対領空侵犯措置として初めてフレアによる警告まで行った。これは単なる「外国軍機の監視」ではなく、わずかな判断ミスが航空機同士の異常接近や、さらに深刻な事態につながりうる任務である。

Japan Ministry of Defence (防衛省), CC BY 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by/4.0, via Wikimedia Commons/【写真:ロシア航空宇宙軍 Tu-95MS戦略爆撃機とSu-35S戦闘機(ロシアン・ナイツ), 航空自衛隊撮影】

スクランブルが増えれば「安全余裕」は削られていく

緊急発進の回数が増えれば、負荷を受けるのはパイロットだけではない。戦闘機を整備する整備員、地上レーダーで状況を監視する要員、戦闘機を誘導する兵器管制官、基地の運航要員、そして機体そのもの――これらすべてに負荷が蓄積する。

特に緊急発進は、通常の計画飛行とは異なる。いつ発令されるか分からない。夜間かもしれない。悪天候下かもしれない。すでに別の飛行任務を終えた直後かもしれない。その状態で短時間のうちに出撃し、相手機を確認しなければならない。このような任務が高頻度で続けば、疲労管理、勤務管理、整備体制、管制体制の重要性はさらに高まる。

「相手機を迎撃できるか」だけでは不十分

日本の防空を考える際、一般には「中国軍機やロシア軍機に航空自衛隊が対応できるか」という戦闘能力の問題に注目が集まりやすい。しかし航空安全の視点から見ると、もう一つ重要な問題がある。それは「高い作戦テンポを、事故を起こさず長期間維持できるか」という問題である。戦闘機の性能が高くても、パイロットや整備員、管制官が疲弊すれば、航空システム全体の安全余裕は小さくなる。高い作戦負荷の中では、空中衝突、異常接近、着陸事故、整備上の不具合など、戦闘によらない損失も無視できなくなる。

日本にとってもこれは他人事ではない。中国・ロシア軍機の活動が今後さらに活発化し、航空自衛隊の緊急発進が増加すれば、必要なのは戦闘機の機数を増やすことだけではない。パイロットの休養、交代要員の確保、整備員の増強、予備機の確保、兵器管制官の勤務管理、基地間での任務分散。さらに、無人機や地上レーダー、早期警戒機などを活用し、有人戦闘機に過度な負担を集中させない体制も重要になる。

平時と有事の境界が薄くなっている

現在の日本周辺で起きていることは、完全な平時とも、全面的な戦争とも言い切れない。中国・ロシア軍機が日本周辺を継続的に飛行し、それに対して航空自衛隊が実際の戦闘機を緊急発進させる。その一回一回は戦闘ではない。しかしパイロットにとっては、相手機が次にどのような行動を取るのか分からない状態で実施する実任務である。

こうした状態が何年も続けば、「戦闘による損失」だけでなく、「戦闘に備え続けることによる消耗」を考えなければならない。ロシアで起きている可能性のある航空戦力の間接的消耗は、日本にとっても重要な警告となる。

防空とは、単に相手機を迎撃できればよいのではない。何百回、何千回と迎撃を繰り返しても、事故を起こさず、必要な戦力を維持し続けられる体制を作ること。それもまた、現代の防空能力を構成する重要な要素なのである。

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参考リンク

【付記】本稿は現時点で確認できる報道・OSINT情報に基づく分析であり、確定的な事故原因を示すものではない。続報が入り次第、内容を更新する可能性がある。

―航空インテリジェンスラボ|2026年9月9日|分析

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