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なぜ世界の戦闘機が日本に集まるのか――フランスの太平洋領土防衛

近年、日本の航空自衛隊基地に、米軍以外の外国戦闘機が相次いで飛来している。
イギリスのユーロファイター・タイフーン、フランスのラファール、インドのSu-30MKI、イタリアのF-35Aやユーロファイター、オーストラリアのF-35A、スペインのユーロファイター。国籍も機種も異なる戦闘機が日本へ展開し、航空自衛隊との共同訓練を行う光景は、もはや極めて特殊な出来事ではなくなりつつある。
一つ一つを見れば、各国と日本との二国間、あるいは多国間共同訓練である。しかし2010年代後半から現在までの流れを一本につなげて見ると、インド太平洋の安全保障構造そのものが変化していることが分かる。日本は従来の「日米同盟の前方拠点」という位置づけに加え、欧州、インド、オーストラリアなどの同志国が航空戦力を展開し、共同訓練を行い、長距離作戦能力を確認する国際的な航空防衛ネットワークの結節点になり始めている。
その変化をさらに加速させた大きな転換点の一つが、2022年2月のロシアによるウクライナ全面侵攻だった。ただし、日本へ戦闘機を送り込む国々をすべて同じ理由で説明することはできない。なかでもフランスには、他の欧州諸国とは異なる重要な事情がある。フランスは単に「欧州からインド太平洋へ関与している国」ではない。フランス自身がインド太平洋に領土を持つ当事者国だからである。
1.始まりの一つは2016年――英空軍タイフーンの来日
現在につながる象徴的な出来事の一つが、2016年のイギリス空軍による日本展開だった。
【事実】2016年10月、英空軍のユーロファイター・タイフーン4機が三沢基地に飛来し、共同訓練「ガーディアン・ノース16」(10月22日〜11月5日)を実施した。空自側からはF-2、F-15戦闘機などが参加し、これは航空自衛隊が国内で米軍以外の国と実施する初めての戦闘機共同訓練だった。[※1]
【事実】日本、英国、イタリアは次期戦闘機を共同開発するGCAP(Global Combat Air Programme)を進めている。GCAPは2022年12月に正式始動し、2035年の配備を目指している。[※2]
【考察】この流れを踏まえると、英国との航空防衛協力は、
共同訓練 → 相互運用性の向上 → 装備・技術協力 → 次世代航空戦闘システムの共同開発
という段階へ発展してきたと整理できる。
2.2023年以降、外国戦闘機の日本展開が相次ぐ
2020年代に入ると、この流れはさらに鮮明になった。
【事実】2023年1月、インド空軍がSu-30MKI戦闘機4機を百里基地へ派遣し、日印戦闘機共同訓練「ヴィーア・ガーディアン23」(1月16日〜26日)を実施した。空自とインド空軍の戦闘機共同訓練はこれが初であり、ロシア系戦闘機の日本飛来も史上初だった。輸送にはC-17輸送機、空中給油にはIl-78が随伴した。[※3]
【考察】インドは米国の正式な同盟国ではない。しかし、日本、米国、オーストラリアとともにQUADを構成する、日本にとって重要な戦略的パートナーである。さらに興味深いのはSu-30MKIという機体そのものだ。航空自衛隊が日常的に運用するF-15、F-2、F-35とは設計思想の異なるロシア系戦闘機を基礎とした機体であり、その航空機と実際に共同訓練できることには、戦術・運用上の価値もある。
【事実】同じ2023年8月、イタリア空軍のF-35A戦闘機4機が小松基地に初飛来し、日伊共同訓練を実施した。カタール・ドーハ、モルディブ・マレ、シンガポールを経由する約1万6000kmの長距離飛行で、KC-767A空中給油・輸送機3機、G550早期警戒機、C-130J輸送機が随伴し、参加人員は約160名だった。なお、イタリア空軍が三沢基地でユーロファイターも投入した共同訓練を行ったのは翌2024年8月であり、2023年の初来日時点ではF-35Aのみの参加だった。[※4]
【考察】イタリアは日本から約1万km離れた欧州国家である。その国が戦闘機、空中給油機、輸送機などを組み合わせてインド太平洋まで展開すること自体が、長距離戦力投射能力の実証となる。そしてイタリアは現在、日本、英国とGCAPを進めるパートナーでもある。
【事実】日豪共同訓練「武士道ガーディアン」は2019年(千歳基地)に始まり、2023年8月には初めて日豪双方がF-35Aを投入する形で「武士道ガーディアン23」(小松基地)が実施された。[※5]また、日豪間の部隊間協力円滑化協定(RAA)は2022年1月の首脳テレビ会談で署名され、2023年に国会承認・実施法が整備された。[※6]訓練開始(2019年)とRAA署名(2022年)の間には約3年の時間差があり、段階的に制度化が進んだ経緯として理解するのが正確である。
【事実】2024年7月には、ドイツ・フランス・スペイン3カ国空軍によるインド太平洋周遊訓練「パシフィック・スカイズ24(Pacific Skies 24)」の一環として、スペイン航空宇宙軍のユーロファイター4機とドイツ空軍のユーロファイター8機が千歳基地へ、フランス航空宇宙軍のラファール2機が百里基地へ、それぞれ展開した。空自とスペイン軍の共同訓練はこれが初だった。[※7]
【考察】こうして見ると、日本への外国戦闘機展開は特定の一国だけの動きではない。欧州からインド太平洋まで広がる、より大きな安全保障構造の変化として捉える必要がある。
3.しかしフランスは少し違う
このなかでも特に注目すべき国がフランスである。フランス航空宇宙軍は、ラファール戦闘機、A330 MRTT空中給油・輸送機、A400M輸送機などを組み合わせ、インド太平洋への長距離航空展開を繰り返している。
【事実】2023年7月〜8月の「ペガーズ2023(PÉGASE 2023)」では新田原基地に、2024年7月の「パシフィック・スカイズ24」では百里基地に、それぞれラファールが飛来しており、日本との共同訓練は複数年にわたって継続されている。[※8]
【考察】しかし、これを単純に「フランス軍が日本へ戦闘機を派遣している」と理解するだけでは、その本当の意味を見落としてしまう。重要なのは、フランス軍にとって日本への展開そのものが最終目的なのではなく、フランス本土からインド太平洋へ航空戦力を迅速に展開できる能力を維持・実証する、より大きな戦略の一部だということである。なぜフランスはそこまでインド太平洋への長距離展開能力を重視するのか。答えは地図を見ると分かる。
4.フランスにとって太平洋は「外国」ではない
フランスを「欧州の国」としてだけ見ると、そのインド太平洋戦略は理解しにくい。実際にはフランスは、同時にインド太平洋国家でもある。太平洋にはニューカレドニアやフランス領ポリネシアなどのフランス領が存在する。そこにはフランス国民がおり、軍事拠点があり、フランスの主権が及ぶ領域が存在する。
【事実】在日フランス大使館の発表によれば、フランスは太平洋地域に海外領土を有する主権国家であり、約200万人のフランス国民を擁する。また、フランスは海外領土によって世界第2位の排他的経済水域(EEZ)を有する(1位は米国)。[※9]
【考察】したがって、西太平洋や南太平洋で安全保障環境が悪化することは、フランスにとって「遠いアジアで起きている問題」ではない。それは、自国民の安全、自国領土の防衛、海洋権益、シーレーン、そして国家主権に直接関係する問題なのである。
この点が、フランスと他の多くの欧州諸国との大きな違いである。英国やイタリア、スペインがインド太平洋へ航空戦力を展開する場合、そこには同盟国支援、航行の自由、国際秩序維持、戦力投射能力の実証など、さまざまな戦略的目的がある。フランスにも当然それらの目的はある。しかしフランスには、それに加えて、「インド太平洋に存在する自国領土を守る」という明確な当事者性が存在する。
5.PÉGASEの本質――「太平洋へ増援できるか」
この視点から見ると、フランス航空宇宙軍による長距離展開ミッション「PÉGASE」の意味も変わって見えてくる。
【考察】ニュースでは、「ラファールが日本へ飛来した」「航空自衛隊と共同訓練を行った」という部分が注目されやすい。しかし軍事的には、ラファールそのものだけを見てもPÉGASEの本質は理解できない。本当に重要なのは、「欧州のフランス本土から遠く離れたインド太平洋へ、短期間で実戦航空戦力を送り込めるのか」という点である。
戦闘機だけを飛ばせば軍事作戦が成立するわけではない。長距離展開には、空中給油機、輸送機、整備要員、交換部品、燃料、通信設備、指揮統制、宿営、地上支援に加え、国境を越えるたびの領空通過・着陸・給油に関する外交・軍事上の調整が必要になる。つまり長距離航空展開とは、戦闘機の航続距離だけの問題ではなく、国家全体の軍事ロジスティクス能力を試す作戦なのである。

6.フランス本土から太平洋の自国領土へ
【考察】PÉGASEをさらに大きな視点から見る必要がある。フランスにとって重要なのは、平時にラファールを日本へ見せに来ることではない。本当に重要なのは、有事になった時に、フランス本土からインド太平洋、さらに太平洋の自国領土・駐留部隊へ航空戦力を増援できるかということである。
例えば南太平洋で重大な安全保障危機が発生したとする。現地の航空・海上・陸上戦力だけで対処できなければ、フランス本土から増援を送る必要がある。しかし距離は極めて長い。だからこそ平時から、どの程度の時間で・何機を・何機の空中給油機を使い・どの国の基地を経由して展開できるのか、到着後どれだけ早く戦闘可能な状態へ移行できるのか――こうした能力を実際に確認しておく必要がある。
PÉGASEのような長距離展開は、単なる国際親善イベントではなく、太平洋の自国領土へ増援する能力そのものを維持するための実践的な訓練だと理解できる。
7.だから日本が重要になる
【考察】ここから、日本の存在が重要になってくる。フランス本土から太平洋まで航空戦力を送り込む場合、一つの基地だけで完結するわけではない。必要になるのは「点」ではなく「ネットワーク」である。そのネットワークの中で、政治的に信頼でき、高度な航空戦力を受け入れられ、燃料・整備・輸送・通信能力を備えた国の価値は極めて高い。日本はその条件を満たしている。
航空自衛隊は高度な航空基地を全国に持ち、F-15、F-2、F-35などの高性能戦闘機を日常的に運用している。航空機整備、燃料供給、航空管制、通信、輸送網などのインフラも整っている。さらに日本には在日米軍という巨大な軍事インフラが存在する。つまり日本は、航空自衛隊、在日米軍、欧州・インド太平洋の同志国を接続できる場所でもある。
フランスから見れば、日本で共同訓練を行うことは、航空自衛隊との戦術交流だけを意味しない。実際に部隊を展開し、着陸し、補給し、整備し、再び出撃する。その経験そのものが、将来インド太平洋で航空戦力を運用するためのノウハウになる。
8.日本は「前線基地」ではなく「戦略的ノード」
【考察】日本を単純に「前線基地」と呼ぶことには注意が必要である。むしろ現在起きている変化を説明するなら、日本は**戦略的ノード(結節点)**になりつつある、と表現した方が適切だろう。
日本は地理的に、中国、ロシア、朝鮮半島、西太平洋に近い。しかし日本の価値は「近い」ことだけではない。燃料補給、航空機整備、輸送、部品供給、通信、情報共有、要員交代、空中給油機・輸送機の運用――こうした軍事活動を支える巨大な後方支援機能が存在する。戦争や軍事作戦では戦闘機やミサイルが目立つが、それらを継続的に動かすのはロジスティクスである。その意味で、日本列島そのものがインド太平洋における巨大な航空ロジスティクス拠点となる潜在力を持っている。
9.なぜASEANではなく日本なのか
では、なぜ東南アジアではなく、日本なのだろうか。
東南アジアにも優れた航空基地を持つ国は存在する。しかし軍事拠点として重要なのは、基地設備だけではない。政治的な予測可能性が必要になる。
【考察】ASEAN諸国の外交政策は一様ではない。米国との安全保障関係が強い国もあれば、中国との経済関係を重視する国もある。ロシア製兵器への依存が残る国も存在する。多くの国にとって中国は巨大な貿易相手であり、投資国でもある。そのため各国は、自国の国益に基づいて米中双方との関係を維持する「戦略的ヘッジ」を行っている。これは決してASEAN諸国の弱さではなく、地理・歴史・経済構造を考えれば合理的な外交戦略でもある。
しかし外国軍が長期的な軍事計画を構築する場合には事情が変わる。危機発生時にも基地を使用できるのか、燃料・整備支援を受けられるのか、部隊を長期間駐留させられるのか、政治情勢が変化しても協力が継続するのか――こうした予測可能性が重要になる。
【事実】日本はACSA(物品役務相互提供協定)などを通じ、複数の同志国との防衛協力を制度化してきた。
【考察】日本の価値は「中国に近い島国だから」だけではない。地理、軍事インフラ、政治的予測可能性、法制度、後方支援能力を同時に提供できることにある。
10.2022年ウクライナ侵攻が変えた「欧州とアジアの距離」
この流れを大きく加速させたのが、2022年のロシアによるウクライナ全面侵攻だった。
【考察】冷戦後、欧州と東アジアの安全保障問題は、ある程度別々に考えることができた。しかし、その前提は崩れつつある。ロシアは欧州で大規模な戦争を継続する一方、中国との軍事協力を深化させている。日本周辺でも、中露両軍による爆撃機の共同飛行や艦艇による共同活動が繰り返されている。一方、中国海軍は第一列島線を越えて西太平洋へ活動範囲を広げており、「遼寧」「山東」などの空母戦力も西太平洋での活動能力を拡大してきた。
こうした状況を前に、「欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分である」という認識が、日本と欧州諸国の間で急速に共有されるようになった。これは単なる政治的スローガンではない。欧州で力による国境変更が成功すれば他地域にも影響し、逆にインド太平洋で力による現状変更が成功すれば欧州を含む国際秩序にも影響する。だからこそ、英国、フランス、イタリア、スペインなどが航空戦力をインド太平洋へ送り込む意味が出てくる。
11.中国の南太平洋進出とフランスの「当事者性」
【考察】フランスについては、もう一段深く見る必要がある。中国の軍事・外交活動は西太平洋だけで完結しているわけではなく、南太平洋諸国との経済・外交関係を拡大し、安全保障分野でも関与を強めている。
フランス領ニューカレドニアやフランス領ポリネシアが存在する以上、中国の南太平洋への進出はフランスにとって「米中対立を外から眺める問題」ではない。地域の軍事バランスが大きく変化すれば、フランス自身の海外領土と海洋権益にも影響する。だからこそフランスには、「必要になれば、本国から太平洋へどれだけ早く航空戦力を送り込めるのか」という能力を平時から確認しておく戦略的合理性がある。ここに、フランスによる反復的なインド太平洋航空展開の重要な意味がある。
12.共同訓練で本当に試されているもの
外国戦闘機が日本へ来ると、どうしても戦闘機同士の空中戦訓練に注目が集まる。もちろん、それも重要である。異なる空軍が共同で飛び、通信し、指揮統制を行い、戦術を共有することは相互運用性の向上につながる。
【考察】しかし、それと同じくらい重要なのが、「そこまで部隊を持って来ることができた」という事実そのものである。第5節で見た空中給油・輸送・整備・外交調整といった要素を、平時から繰り返し機能させておかなければ、有事になった瞬間に突然実施することは難しい。つまり共同訓練とは、戦闘機同士が戦う練習だけではなく、戦力を動かす練習でもある。そして、その能力を外部へ示すこと自体が抑止につながる。
13.日米同盟から「多層的安全保障ネットワーク」へ
もちろん、日本の安全保障の基軸が日米同盟であることに変わりはない。しかし、その周囲に新しいネットワークが形成されている。日英、日仏、日豪、日印、日伊、QUAD、そして日本・英国・イタリアによるGCAP。
【考察】これらはNATOのような単一の集団防衛機構ではない。各国の対中政策や対露政策にも違いがあり、単純な「中国包囲網」と表現するのも正確ではない。むしろ、複数の二国間・多国間協力が重なり合う「多層的安全保障ネットワーク」と考えた方が実態に近い。そして、そのネットワークの主要な接続地点の一つになりつつあるのが日本なのである。
14.GCAPはさらに次の段階を示している
この変化を象徴する存在がGCAPである。日本、英国、イタリアは次世代戦闘機を共同開発している。これは共同訓練とは次元が違う。
【考察】同じ航空プラットフォームを共同開発するということは、将来的にセンサー、通信、データリンク、兵器、整備、ソフトウェアなど、航空戦闘システムの深い部分まで三国が関係する可能性を意味する。つまり、外国戦闘機が日本へ来る → 共同訓練する → 相互運用性を高める → 装備・技術協力を行う → 次世代戦闘システムを共同開発する、というところまで航空防衛協力が進み始めている。これはインド太平洋の安全保障構造がどこまで変化したかを象徴している。
15.日本に来るラファールを見る時、本当に見るべきもの
日本へ飛来するラファールの写真を見ると、目を引くのは当然戦闘機そのものである。しかし航空地政学の視点から見れば、本当に注目すべきなのは、その後ろに存在するものだ。
【考察】どこから飛んできたのか。どのルートを通ったのか。何回空中給油を受けたのか。どの国の基地を利用したのか。何機の輸送機が随伴したのか。どこで整備したのか。そして日本を離れた後、どこへ向かったのか――そこまで追跡すると、一機のラファールの背後から、フランスが構築している巨大なインド太平洋航空ネットワークが見えてくる。そしてその先には、ニューカレドニアやフランス領ポリネシアという「フランス自身の領土」が存在する。
したがってPÉGASEを、「フランス空軍が日本へやって来るイベント」として見るだけでは不十分である。より本質的には、
フランス本土 → インド太平洋への長距離戦力投射 → 太平洋のフランス領・駐留部隊への増援能力 → 日本・オーストラリアなどとの共同訓練 → 相互運用性と兵站ネットワークの構築
という巨大な戦略の中で見る必要がある。
おわりに――日本に集まる戦闘機が示しているもの
2016年、英空軍のタイフーンが日本へ飛来した時、それは非常に珍しい出来事だった。それから約10年、フランスのラファール、インドのSu-30MKI、イタリアのF-35A、オーストラリアのF-35A、スペインのユーロファイターと、さまざまな国の主力航空戦力が日本へ展開するようになった。
【考察】この変化を「国際交流が活発になった」というだけで片付けることはできない。その背景には、中国の軍事力拡大、ロシアによるウクライナ侵攻、中露軍事協力、西太平洋における軍事活動の拡大、そして欧州とインド太平洋の安全保障が接続し始めたという巨大な地政学的変化が存在する。
なかでもフランスの立場はより明確である。インド太平洋は「遠い外国」ではなく、自国民、自国領土、軍隊、海洋権益が存在する場所である。だからこそフランスは、本土からインド太平洋へ航空戦力を送り込む能力を平時から実際に動かし、パートナー国との相互運用性を確認している。そのネットワークの中に日本が存在する。
そして日本側から見れば、日本はもはや日米同盟だけを見る場所ではなくなりつつある。英国、フランス、オーストラリア、インド、イタリアなどとの航空防衛協力が重なり、その上にGCAPのような次世代戦闘システム共同開発まで形成され始めた。日本列島は地理的な「最前線」であるだけではなく、航空基地、整備、燃料、輸送、通信、情報、法制度、そして同盟・同志国関係を接続する、インド太平洋の航空防衛・ロジスティクスネットワークの戦略的結節点へと変化し始めているのである。
今後注目すべきなのは、「次はどの国の戦闘機が日本へ来るのか」だけではない。その展開が一回限りなのか、反復されるのか、制度化されるのか、補給・整備まで含む共同運用へ進むのか、そして有事を想定した長距離展開ネットワークへ発展するのか――という点である。
日本へ飛来する外国戦闘機は、単なる航空ファン向けの珍しい光景ではない。その一機一機の背後には、インド太平洋をめぐる国家戦略、同盟関係、軍事ロジスティクス、そして世界の安全保障秩序の変化が存在している。戦闘機の飛来ルートを追うことは、変わりつつある世界の地政学を追うことでもある。
主要情報源
- ガーディアン・ノース16 英空軍タイフーン三沢基地展開 ― レスポンス(Response.jp) https://response.jp/article/2016/11/09/285137.html
- Global Combat Air Programme ― Wikipedia https://en.wikipedia.org/wiki/Global_Combat_Air_Programme
- インド空軍Su-30MKI、百里基地に到着 ― Aviation Wire https://www.aviationwire.jp/archives/267200
- 初来日のイタリア空軍F-35A、小松基地展開 ― 乗りものニュース https://trafficnews.jp/post/127640
- 日豪共同訓練「武士道ガーディアン」武士道ガーディアン23 ― 乗りものニュース(Yahoo!ニュース配信) https://news.yahoo.co.jp/articles/9171e261d46feabadf8e3c508b240ce285e51d73
- 日豪が円滑化協定(RAA)に署名 ― 笹川平和財団 国際情報ネットワークIINA https://www.spf.org/iina/articles/thomas_03.html
- ドイツ軍とスペイン軍の戦闘機など、共同訓練のため千歳基地へ飛来(Pacific Skies 24) ― j-defense(防衛省発表転載) https://j-defense.ikaros.jp/docs/mod/001025.html
- フランス航空宇宙軍「ペガーズ23」ミッション、日本に展開 ― 在日フランス大使館 https://jp.ambafrance.org/article19334
- 同上(在日フランス大使館、フランスのEEZ規模および太平洋領土の記述) https://jp.ambafrance.org/article19334
―航空インテリジェンスラボ|2026年9月3日|分析
