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JSXがES-36を最大100機発注 ― Heart Aerospaceの新型ハイブリッド電動機は何が変わったのか

本稿のポイント
- JSXがHeart AerospaceのES-36を最大100機導入へ(デポジット付き確定50機+追加購入権50機)
- ES-36はES-30から座席数(30→36席)・推進方式(4ナセル→2ナセルのシリーズ・ハイブリッド)を刷新した新しい量産機計画
- 初飛行は2028年後半、FAA Part 25型式証明取得を経て2031年の商業運航開始が目標
- ユナイテッド航空・Mesa Air Group・エア・カナダなど既存顧客がES-36へ移行するかも今後の注目点
事実
米国の航空会社JSXは、Heart Aerospaceが開発する36席のハイブリッド電動旅客機「ES-36」について、最大100機の導入につながる購入合意を締結した。Heart Aerospaceが2026年9月23日に発表したもので、JSXはES-36を50機購入するデポジット(手付金)付きの購入契約を締結し、さらに50機分の追加購入権を確保した。すべて行使された場合、最大100機規模となる。今回の契約は、JSXが2023年にHeart Aerospaceと締結していたES-30に関する意向表明(LOI)を発展させたものであり、JSXはES-36の早期引き渡し枠も確保するとされる。
JSXは、大手航空会社のような大型空港の旅客ターミナルではなくプライベートターミナル等を活用し、短時間での搭乗を特徴とする航空サービス事業者であり、定期航空輸送の利便性とプライベートジェットに近い手軽さの中間を狙ったビジネスモデルを展開している。主力機材はエンブラエルERJ-135/ERJ-145を30席仕様に改修したものだが(保有機数については情報源により40〜58機程度とばらつきがあり、当ラボでは一次情報の再確認を進めている)、2025年12月からはATR 42-600(30席仕様)の運航も開始しており、2026年初頭時点で4機体制としている。2025年のパリ航空ショーではATR社と最大25機のLOIを締結しており、今後さらに機材の拡大が見込まれる。

Heart Aerospaceは2018年、スウェーデン・ヨーテボリで設立された電動航空機メーカーである。2025年には本社をヨーテボリから米カリフォルニア州へ移転し、現在の本社はロサンゼルス近郊のトーランスに置かれている。同社が目指しているのは、電動化によって地域航空の運航コストを低減することである。同社は2026年8月、技術実証機「Heart X1」の初飛行をニューヨーク州プラッツバーグで実施しており、そこで得られた設計・製造・試験・飛行の知見がES-36の設計に反映されているという。
ES-36は36人乗りの与圧式リージョナル旅客機で、「シリーズ・ハイブリッド」と呼ばれる推進システムを採用する。従来計画されていたES-30は4基のナセル・プロペラ構成だったが、ES-36では2基へと簡素化された。左右の推進システムにはそれぞれ1.65MWの電動モーターが搭載され、プロペラを駆動する。短距離では地上充電したバッテリー電力のみで飛行し、この場合の航続距離は約200km(125マイル)+予備分とされる。より長距離を飛行する場合は、各パワートレインに搭載されたガスタービン駆動のターボジェネレーターが発電し、バッテリーと電動モーターを支援する。このハイブリッド運航時の航続距離は約1,200km(745マイル)+予備分が計画されている。
座席数はES-30の30席から36席へ6席増加し、ペイロードも1,415ポンド(約642kg)増加する一方、最大離陸重量とバッテリー容量はES-30計画と同じ水準を維持するとされる。ナセル・プロペラ数の削減は、整備対象となる推進関連部品の削減にもつながるとみられる。
Heart AerospaceはロサンゼルスのパイロットプラントでES-36の最初のプリプロダクション機体を製造しており、2028年後半の初飛行を目指す。その後、FAA Part 25に基づく型式証明取得を進め、2031年の商業運航開始を目標としている。したがって、今回JSXが購入合意を結んだからといって、ES-36がすぐにJSXの路線に投入されるわけではない。開発、飛行試験、型式証明取得、量産、航空会社側の導入準備など、新型機の実用化には長い時間を要する。
ES-30・ES-36 機体紹介とスペック比較
ES-30は、Heart Aerospaceが2022年9月に発表した30席のハイブリッド電動リージョナル機で、ES-36の設計母体となった機体である。ターボプロップ2基と電動モーター2基を組み合わせた4ナセルの「独立型ハイブリッド」方式を採用していたが、量産型として飛行することはなく、実証機「Heart X1」による技術実証を経て、今回発表されたES-36へと設計を発展させる形となった。
ES-36は、このES-30をベースに座席数を36席へ拡大し、ナセル・プロペラを2基に簡素化した「シリーズ・ハイブリッド」方式を採用する量産機計画である。両機の主要な公表値は以下の通り。
| 項目 | ES-30(旧計画) | ES-36(新・量産機計画) |
|---|---|---|
| 発表時期 | 2022年9月 | 2026年9月23日 |
| 座席数 | 30席 | 36席(ES-30比+6席) |
| 推進方式 | 独立型ハイブリッド(4ナセル:ターボプロップ2基+電動モーター2基) | シリーズ・ハイブリッド(2ナセル:片側1.65MW電動モーター) |
| 純電動航続距離 | 約200km(124マイル)+予備 | 約200km(125マイル)+予備 |
| ハイブリッド航続距離 | 標準30席時で約400km(220nm)程度、25席の軽量仕様時で最大約800km(496マイル) | 約1,200km(745マイル)+予備 |
| ペイロード | (ES-36比較の基準) | ES-30比+1,415ポンド(約642kg、+約20%) |
| 最大離陸重量(MTOW)・バッテリー容量 | ― | ES-30計画と同水準を維持(具体値は非公表) |
| 離着陸距離 | 約1,100m(公表値) | 非公表 |
| 実証機の初飛行 | Heart X1が2026年8月にプラッツバーグ(米ニューヨーク州)で初飛行 | ― |
| 量産機の初飛行目標 | ― | 2028年後半 |
| 型式証明・商業運航開始目標 | ― | FAA Part 25/2031年 |
| 主な契約先(LOI・確定発注) | United Airlines、Mesa Air Group、エア・カナダ、JSX 等 | JSX(デポジット付き50機+オプション50機) |
(ES-30の一部の数値は開発中に複数回改定されており、上表は各時点の公表資料に基づく。ES-36のMTOW・バッテリー容量・離着陸距離など、Heart Aerospaceが非公表としている項目は「非公表」と明記した。)

考察
現在のJSXが30席仕様のERJ-135/145を運用していることを踏まえると、36席のES-36は同社の事業モデルと比較的親和性の高いサイズと考えられる。もっとも、ES-36は現時点でまだ飛行しておらず、実際の性能・運航コスト・信頼性・整備性などについて評価できる段階にはない。それでも、当該サイズの機材を実際に運航するJSXが50機のデポジット付き契約と追加50機の購入権を確保したことは、地域航空機市場の今後を占ううえで注目に値する動きだと当ラボは見ている。
従来のターボプロップ旅客機に近い実用性を目指す
ES-36のもう一つの特徴は、電動推進を採用しながら、従来のリージョナル・ターボプロップ旅客機に近い実用性を目指している点にある。機内は与圧キャビンであり、36人の乗客を乗せて地域間を結ぶ通常の旅客機として設計されている。外観も左右に1基ずつプロペラを備えた双発機であり、一見すると従来のターボプロップ旅客機に近いが、その内部ではプロペラを電動モーターで駆動する点が大きく異なる。
ES-36は完全なバッテリー電動機として航続距離を追求するのではなく、電動モーターとガスタービン発電を組み合わせることで、電動推進の特徴を取り入れながら地域航空機として必要な航続距離と運用性を確保しようとする設計とみられる。「電動推進でありながら、与圧された36席の客室と実用的な航続距離を持つ」という点は、ES-36を単なる実験的な電動航空機ではなく、将来のリージョナル旅客機として位置づけるうえで重要な特徴の一つといえる。
燃料価格高騰時代の新たな選択肢となるか
航空会社にとって、燃料価格の変動は収益を大きく左右する要因の一つである。ES-36は航空燃料を完全に排除する機体ではないが、短距離路線ではバッテリーによる電動飛行を、より長い路線ではガスタービン発電を組み合わせたハイブリッド運航を想定している。計画通りの性能と経済性が実現すれば、航空燃料価格が上昇する局面において、従来のターボプロップ機とは異なるコスト構造を持つことになるとみられる。特に、長い航続距離を必要としない短距離の地域路線では、地上充電した電力を積極的に活用できるES-36の特性が相対的に活きる可能性がある。
一方で、実際の経済性は電力価格、充電設備への投資、バッテリーの寿命・交換費用、整備費、機体価格なども含めて総合的に判断する必要がある。現時点でHeart Aerospace側が示す「運航コスト40%低減」等の目標値についても、型式証明・実運航を経て初めて検証可能になる性質のものである点には留意が必要だ。それでも、航空燃料価格の高騰や脱炭素への対応が長期的な課題となるなか、ES-36のようなハイブリッド電動旅客機は、地域航空会社にとって新たな機材選択肢となる可能性を持っている。
ユナイテッド航空など既存顧客の動向にも注目
今回のES-36発表でもう一つ注目されるのが、これまでHeart Aerospaceの航空機を導入する計画を示してきた航空会社の動向である。Heart Aerospaceの旅客機計画は、当初の19席電動旅客機「ES-19」から30席のES-30へ発展し、今回さらに36席のES-36へと進化してきた。
ユナイテッド航空とMesa Air Groupは、2021年に当初ES-19をそれぞれ100機導入する計画を示していた。その後、Heart AerospaceがES-19からES-30へ開発計画を変更した2022年には、両社による合計200機の注文(オプション100機を含む)がES-30向けとして再確認された経緯がある。また、エア・カナダも2022年にES-30を30機導入する計画を発表しており、同社はHeart Aerospaceの株主にもなっている。
今回、Heart AerospaceはES-36を今後の量産機として位置づけており、これまでES-30の導入を予定していた既存顧客がES-36へ移行するのかという点は今後の注目点である。JSXについては、2023年に発表していたES-30の導入計画から、今回、ES-36の50機についてデポジットを伴う購入契約を締結し、さらに50機分の追加購入権を確保する形へと正式に進展した。一方、ユナイテッド航空やエア・カナダについては、従来のES-30に関する契約・コミットメントがES-36へどのように移行するのか、現時点では機数や契約形態の内訳までは公表されていない(Heart Aerospaceは、JSXに加えユナイテッド航空・エア・カナダからのコミットメントもあるとしている)。Heart AerospaceがES-36を今後の量産機として開発していく以上、これら既存顧客がどのような判断を示すのかは、ES-36の将来の受注規模を考えるうえでも重要なポイントとなりそうだ。
日本の地域航空にとっての意味は
ES-36のような36席クラスのハイブリッド電動旅客機は、将来的には日本の地域航空にとっても興味深い存在となる可能性がある。日本には、本土と離島、あるいは離島同士を結ぶ比較的短距離の航空路線が数多く存在する。こうした路線では、大型機ほどの座席数を必要としない一方、地域住民の生活を支える交通手段として一定の運航頻度を維持する必要がある。36席という機体規模に加え、短距離ではバッテリーによる電動飛行、より長い距離ではハイブリッド運航が可能というES-36のコンセプトは、こうした地域航空との相性を考えるうえでも興味深い。
もちろん、現時点で日本での導入計画が発表されているわけではなく、実際の運航には空港の充電インフラ、電力供給、整備体制、型式証明の相互承認を含む認証プロセスなど多くの課題があるとみられる。それでも、燃料価格の上昇や地方航空路線の維持が課題となるなか、ES-36のような新しい36席クラスの航空機は、日本の離島・地域航空にとっても将来的な選択肢の一つとなる可能性がある。
ES-36の機体構造、ハイブリッド推進システムの安全性・冗長性、既存のターボプロップ旅客機との違い、そして既存顧客の対応については、初飛行・飛行試験・FAA認証プロセスの進捗を踏まえ、当ラボとして今後あらためて詳しく分析したい。
参考リンク
- Heart Aerospace Unveils ES-36 with JSX Purchase Agreement for Up to 100 Aircraft(Heart Aerospace公式) https://www.heartaerospace.com/newsroom/heart-aerospace-unveils-es-36-with-jsx-purchase-agreement-for-up-to-100-aircraft
- Heart Unveils ES-36 With JSX Order(AVweb) https://avweb.com/aviation-news/heart-unveils-es-36-with-jsx-order/
- Heart reveals ES-36 as it rejigs design for the fourth time(FlightGlobal) https://www.flightglobal.com/united-states/2026/09/heart-reveals-es-36-as-it-rejigs-design-for-the-fourth-time/
- Heart Unveils Redesigned Hybrid Regional, Backed By JSX Order(Aviation Week) https://aviationweek.com/air-transport/aircraft-propulsion/heart-unveils-redesigned-hybrid-regional-backed-jsx-order
- Heart Aerospace unveils new airplane design, confirms Air Canada and Saab as new shareholders(Heart Aerospace公式、2022年) https://www.heartaerospace.com/newsroom/heart-aerospace-unveils-new-airplane-design-confirms-air-canada-and-saab-as-new-shareholders
- JSX Starts ATR Public Charter Operations(ATR公式) https://www.atr-aircraft.com/presspost/jsx-starts-atr-public-charter-operations/
付記
本稿はOSINT(オープンソース情報)に基づく分析であり、一次情報源(Heart Aerospaceプレスリリース等)および複数の航空専門メディアの報道を突き合わせて事実確認を行っている。JSXの保有機材数については情報源間で差異があり、確定的な最新数値は今後の追加確認事項とする。
―航空インテリジェンスラボ|2026年9月28日
